Outer space from the International Space Station at 400 km (250 mi) altitude in low Earth orbit. In the background the Milky Way's interstellar space is visible, as well as in the foreground, above Earth, the airglow of the ionosphere just below and beyond the so-defined edge of space the Kármán line in the thermosphere. Credit: NASA/Scott Kelly
Outer space from the International Space Station at 400 km (250 mi) altitude in low Earth orbit. In the background the Milky Way's interstellar space is visible, as well as in the foreground, above Earth, the airglow of the ionosphere just below and beyond the so-defined edge of space the Kármán line in the thermosphere. Credit: NASA/Scott Kelly

宇宙への核兵器配備は現実か、それともこけおどしか

【国連IDN=タリフ・ディーン】

宇宙空間における核兵器に対する恐怖の高まりは、国連が「宇宙空間の平和的利用に関する委員会」を常設機関として立ち上げた65年前の1959年には想像もつかないことだっただろう。

国連における臨時委員会としては最大の102参加国を擁した同委員会は、「平和、安全、開発のために」を標語に、人類全体の利益のための宇宙の探査・利用を規制するために設置された。

しかし、ロシアが宇宙を基盤とした兵器の打ち上げを提案したとの観測が広まり、それが米国をさらなる開発に向かわせている。

『ニューヨーク・タイムズ』は2月19日の記事で、米国のアントニー・ブリンケン国務長官が宇宙空間で核爆発が起これば、米国だけではなく中国やインドの衛星も破壊されることになろうと発言したと報じている。

米国は他方で、自らの(核兵器)は人類に真の脅威を与えていない、としている。

米国家安全保障会議の戦略的コミュニケーション問題担当ジョン・カービー氏は2月19日、「人間を攻撃したり地表を物理的に攻撃したりするようなタイプの兵器については議論していない」と記者団に答えた。

国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)で検証・安全保障政策の責任者をかつて務めていたタリク・ラウフ氏は、「少しの知識は危険である」という格言は、バイデン政権に対し、ロシアによる対衛星核兵器の宇宙配備計画とされる「重大な国家安全保障上の脅威」に関する情報の機密指定を解除するよう要求した米下院情報委員会のマイク・ターナー委員長にも当てはまると語った。

幸いなことに冷静さが上回っており、下院のマイク・ジョンソン議長は、パニックに陥ったり警告を発したりする必要はないと述べている。

ラウフ氏によれば、宇宙空間で核爆発が起これば、軌道上にある衛星が破壊され、軍事活動も民生活動も阻害されることになるという。

「軍事部門では、偵察、軍備管理の検証、ミサイル発射の早期警戒、戦闘管理のための衛星が破損あるいは破壊することになれば、米ロ両国ともに被害を受け、『目』を奪われた状態になる。だから宇宙に兵器を配備することにはあまり意味がない。」

ラウフ氏によれば、現在のところ対衛星兵器(ASAT)を禁止する国際体制は存在しないといい、そうした兵器には必ずしも核爆発装置を要するわけではない。弾道ミサイルに搭載された核兵器は、地表上の標的に向かって発射された場合、宇宙空間を飛ぶことになるが、これは、核爆発装置の宇宙での実験や配備を禁じた宇宙条約違反にはあたらないという。

1963年の部分的核実験禁止条約は宇宙における核爆発を禁じている。

国連宇宙問題局の元局長で国際宇宙法・政策研究所のナンダシリ・ジャセントゥリヤナ名誉教授は、法的な観点から言えば、宇宙法は抑止を基盤としたものだと語った。

「ロシアが1967年宇宙条約に違反したことは、自らを傷つける行為であり逆効果だ。報復的な打ち上げを今すぐにでも行おうと手ぐすねを引いている国もいくらかある。」とジャセントゥリヤナ名誉教授は話した。

「軍事力の通信手段を破壊することは、その軍事機構が制御能力を失うということだ。戦時においてすら、交戦当事国は他国の通信ケーブルや主要な通信システムの破壊には及ばないものだ」。

「そんなことをすれば、戦勝国は被征服国の国民やその軍隊との連絡手段を失ってしまう。私の意見では、ロシアは、宇宙条約の違反のみならず宇宙に核を配備することで、失うものが多いことと比較して得るものはほとんどない。」

そうした行為によって短期的には戦術的優位がもたらされるかもしれない。しかし、私の意見では、避けがたい長期的マイナスの方が上回ってしまう。

戦略的なレベルで言えば、「私が理解する限り、詳しいところは――明らかな理由で――隠されており、『核』に言及することで、実際にどのような事態が進行しているのかよく理解しないままに多くの国が軍備に走る結果に陥るのではないか。」

あらゆる種類の噂を引き起こして人々を不安な状態に陥らせるのはロシアの常套手段と言えるかもしれないが、宇宙空間で使用される核兵器の実現性と軍事的有用性には疑問符が付されている。というのも、宇宙空間には大気がなく、何かを爆発させた場合にロシア自身の宇宙施設と他国のそれを区別することができないからだ(米国自身も1960年代にスターフィッシュ・プライムによってそれを経験した)。

かつて国連事務次長も務めていたジャセントゥリヤナは「宇宙空間での(攻撃的な)軍事的任務を帯びた原子力衛星を宇宙上に置くような事態が進行している可能性も否定できない。それが宇宙条約に抵触しないかどうかには議論の余地がある。しかし、重大な脅威であることは間違いない」と述べる。

国連のステファン・ドジャリッチ広報官は、そうした報道がメディア上で出ていることは認めた上で、「具体的な情報は入ってきていない」と語った。

明らかに、原則の問題として言えば、国連事務総長は、法的拘束力のある措置も政治的な措置も含めて、宇宙空間における軍拡競争を回避するようすべての加盟国に呼びかけ続けるだろう。

「そして、核兵器に関して言えば、加盟国は条約上の義務に従い、壊滅的な帰結をもたらす計算違いやエスカレーションにつながりかねないいかなる行為をも回避せねばならない」とドジャリッチは語った。

ラウフはさらにこう付け加える。「1958年に、月の表面で水爆を爆発させる『プロジェクトA-119』を米国が一時期追求したことを思い出した人もあるかもしれない。地球からでもはっきり見えるきわめて巨大な放射能雲と激しい光によってソ連に米国の力を見せつけることが目的だった。幸いなことにプロジェクトは実行されず月はそのままの形で保たれた。その後、1979年の月条約で月やその他の天体で核実験を行うことが全面禁止された。」

1962年7月、広島型原爆の500倍の威力を持つ爆発力1.4メガトンの米国の核爆発装置「スターフィッシュ・プライム」によって電磁パルスが発生し、いくつかの衛星が使用不能になった。地球上の磁場が爆発から発生した放射線を捉え、その後10年にわたって放射線帯(スターフィッシュ帯)が残った。

米ソともに1960年代初頭に宇宙で核爆発実験を行っている。ソ連の「プロジェクトK」核爆発は1961年から62年にかけて行われ、米国は宇宙で11回の核爆発実験を行っている。

ラウフ氏によれば、対衛星兵器や宇宙空間におけるその他の兵器を禁止するなど、宇宙における軍拡競争の予防(PAROS)に関する取り組みは、ジュネーブ軍縮会議でもニューヨーク国連本部での国連総会第一委員会でも停滞してきたという。

ラウフ氏はまた、国連総会が1959年に設置した「宇宙空間の平和的利用に関する委員会」(ジュネーブ)は、宇宙空間の平和的利用に関する国際協力の促進と、平和・安全・開発のために全人類に利益をもたらす宇宙の探査・利用の規制を任務としていると指摘した。

一般的には、米国とEU諸国は宇宙での活動に関して自主的な行動規範(一例として「宇宙活動に関する国際行動規範」[ICoC])と透明性を求める傾向にあり、中国やロシアなどは宇宙への兵器非配備を規定した法的拘束力のある措置(一例として「宇宙空間における兵器配備及び宇宙空間の対象に対する戦力使用を防止する条約」[PPWT])を求める傾向にあるとラウフ氏は説明する。

ジャセントゥリヤナ氏は、宇宙空間への核兵器の配備は宇宙条約の第2・3・4・6条、及び、部分的核実験禁止条約と国連憲章に抵触する可能性があるとする。

「国連憲章はいまや慣習国際法となっており、宇宙条約の第2・3・4条も同様に国際慣習法とみなされるべきだ。したがってロシアはこれらの条約を否定することはできなくなる。」(2.21.2024) INPS Japan/ IDN-InDepthNews