|軍縮|非合法でありながら存在し続ける核兵器

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IDNシドニー=ニーナ・バンダリ】

 

森本順子さんは、米国が彼女の故郷広島に最初の原爆を投下したとき13歳の少女だった。1945年8月6日の当日、彼女は腹痛を訴え学校を欠席していたことから、爆心地から1.7キロ離れた自宅で被爆した。もし市の中心部に位置していた広島女学院高等女学校に登校していたら360名の同窓生とともに命を失っていただろう。


森本さんは手術が不可能な脳腫瘍を患っており、その影響によりバランス感覚が不自由である。原爆投下から70年近くが経過したが、日本の人々は今でも、放射能が環境や世代を超えて人体に及ぼした恐るべき後遺症とともに日々の生活を送っている。

 

「広島と長崎への原爆投下は私たちに2つの教訓をもたらしました。一つは、私たち人間が地獄をこの世に作り出す能力を手に入れてしまったということ。そしてもう一つは、私たちは、その恐ろしい能力を実際に使ってしまうほど、あまりにも愚かで、信用できない、つまらない存在だということです。」と、森本さんは語った。彼女は1981年にオーストラリアに移住し、今は著名な絵本作家・画家として活躍している。

 

今年の7月8日は、国際司法裁判所(ICJ)が核兵器の威嚇・使用の合法性に関する画期的な勧告的意見を出してから15周年にあたる。ICJの15人の判事全員一致の見解として、「各国政府は、厳格かつ効果的な国際的管理のもと、あらゆる分野にわたる核軍縮につながる交渉を誠実におこない完了させる義務が存在する。」と述べた。

 

7月5日、メルボルン市庁舎で核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とオーストラリア赤十字の共催のもと、公開討論会が開催され、「核兵器のない世界」実現を求める人々が、会場を埋め尽くした群集の前で演説を行った。

 

たんなるオプションではない

 

この公開討論会に登壇した自由党のマルコム・フレーザー元首相は「核軍縮はたんなるオプションではありません。国際法で義務付けられたものなのです。そしてそれは、核兵器禁止条約-いかなる国家による核兵器保有も禁止し、定められた期間内に全ての核弾頭の廃絶を完了させる法的メカニズムを打ち立てる包括的な条約-の発効を通じて最も望ましい形で実現できるのです。」と語った。

 

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月に発表した世界の軍備動向に関する2011年の年次報告書によると、現在8カ国或いは9カ国の兵器庫に合計20,000発を超える核兵器が保有されている。

 

米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエルの8カ国は合計で20,500発以上の核兵器を保有している。その内、5,000発以上が実戦配備されており、内約2000発は高度な「即応態勢」に置かれている。

 

核兵器廃絶を目指す世界的な運動組織「グローバルゼロ」は、向こう10年間に世界で核兵器に費やされる金額は1兆ドルを上回ると予測している。核兵器保有国は今年だけでも核兵器プログラムに総額で約1000億ドルを費やす予定である。

 

「政治指導者たちは、核兵器がいかなる人の安全にも寄与しないということを理解すべきです。彼らは世界をかえってより危険なものにしているのです。益々多くの国々が核兵器を製造する方法を習得しています。もし核軍縮に向けた努力が今よりもはるかに真剣な形で進められなければ、核兵器の保有を目指す国々は益々増え、故意か事故に関わらず、核戦争が勃発する危険性はより大きなものとなるでしょう。」とフレーザー元首相はIDNの取材に応じて語った。

 

2010年4月、世界の備蓄核兵器の95パーセントを保有する米国とロシアが、控えめな規模の核軍縮に合意する新戦略兵器削減条約(新START)を締結した。しかし、米露両国とも、現在新たな核兵器運搬手段の配備を進めるか、或いはそのような計画がある旨を発表している。一方、インド、パキスタン両国は、引き続き核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発を続けている。

 

フレーザー元首相は、こうした兵器を一刻も早く廃絶する重要性を強調して、「核兵器を廃絶するための多国間協議プロセスが、実質的に存在していないという現状を深く憂慮しています。とっくに発効してしかるべき核兵器禁止条約も、未だ実現していません。オーストラリアは、核廃絶に向けた実質的な協議が進められるよう国際的な圧力をかけていくべきです。」と語った。

 

オーストラリアのジュリア・ギラード首相は、核廃絶を国会決議とするよう、国会に動議を上程する意向を示している。ギラード首相は、この核廃絶決議を超党派のものにしようと、トニー・アボット自由党党首に協力を呼びかけた。

 

核問題を党派対立から遠ざける

 

「これは政府にとって、核と軍縮の問題を、より党派間対立が少ない非政治的な領域に持っていくことで、むしろ人道的な問題に転換する絶好の機会なのです。」と、ICANオーストラリアのティルマン・ラフ議長はIDNの取材に応じて語った。

 

オーストラリアは、興味深い立ち位置にある。なぜなら、オーストラリアは国家としては核兵器を保有していないが、同盟間にある米国の核の傘(拡大核抑止)理論に賛成している立場をとっているからである。

 

「オーストラリアが安全保障を米国の『核の傘』に依存している限り、いかに核軍縮を唱えても説得力に欠けるものがあります。米国の大統領が核軍縮という大義を支持している今こそ、オーストラリアが核兵器に依らない国防体制を採択するとともに、核軍縮に向けた重要な貢献を開始する理想的な時期のように思います。」とフレーザー元首相は語った。

 

オーストラリアは、ウラン埋蔵量が全世界の約40%を占め、主要なウラン輸出国である。

 

「我が国のウラン輸出は、確かに軍縮を進める上で一つの障害となっています。たとえオーストラリア産のウランを輸入する国々との保障協定が結ばれていたとしても、それらのウランが軍事用に使われたり、或いはその代わりに国内の備蓄ウランが同様の目的で使われたりするリスクが常にあるのです。」と、ICANオーストラリア核廃絶国際キャンペーンディレクターのティム・ライト氏はIDNの取材に応じて語った。

 

各国の政府や一般市民は、福島第一原発の危機を見て、発電のための核技術に本来的に備わっている危険性を認識し警戒するようになった。ICANは、放射能は、原子炉からのものであろうが核爆弾由来であろうが、出発物質(化学反応の原料)は同じであり、もたらされる影響も完全に無差別かつ同質のものであると指摘している。

 

「原発用の原子炉級ウラン濃縮を行えるいかなる国も、実はウランを兵器級まで濃縮するために必要なものをすべて手に入れているのが実情です。すなわち、両者は不可分なのです。現在、ウラン濃縮についても、プルトニウム抽出のための使用済核燃料処理についても、制限が設けられていません。これらの物質は、核兵器の原材料である核分裂性物質の元ですが、各国によるこうした物質へのアクセスを制限する国際規制は現在のところないのです。このような現状は、『核兵器のない世界』の実現或いは維持という理想とは、相矛盾するものです。」とラフ議長は語った。

 

核不拡散から核廃絶へ

 

核兵器ゼロの支持者は、ラメシュ・タクール元国連事務次長補が述べたように、議論の焦点が核不拡散から核廃絶へと移ることを望んでいる。タクール元国連事務次長補は、「私たちには、以下のような優先順位に基づく具体的なステップを踏まえた核廃絶へのロードマップが必要である:①核兵器の保有と使用を分けるより強固な保護システムを導入する、②既存核弾頭の更なる大胆な削減と中期的な計画に基づく核分裂性物質の生産凍結を実現する、③私たちが生存している間に、確固たる検証体制の下で全ての核兵器の破棄を義務付ける核兵器禁止条約(NWC)を発効させる。」と語った。

 

タクール元事務次長補は、NPTに加盟していない核保有国(インド、パキスタン、イスラエル)が、非核保有国としてNPT加盟を余儀なくされる事態は可能だと考えるのは、現実的ではないと見ている。

 

核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)によると、今日地球上に存在する核兵器の総破壊力は、広島に投下された原爆の15万倍に相当する。

 

ラフ議長が言うとおり、世界の核兵器のほんの僅かな量が、比較的小さな地域に使用されたとしても、その影響は、極めて深刻かつ前例のない地球規模のものとなる。米国科学アカデミーは、核爆発の影響を確実に防ぐ方法はないと明確に結論付けている。核兵器と気候変動は、現在生きている人類のみならず、人類の未来や複雑な生態系を支える地球の能力に対しても、かつてない脅威を及ぼす。従って、核兵器をゼロにするまで、一刻も早くもっていくことが緊急に求められているのである

 

オーストラリア赤十字は、核兵器の違法性を確認するさらなる法律の必要性を訴えるうえで、国際的に指導的な役割を果たしている。

 

オーストラリア赤十字の国際法、戦略顧問であるヘレン・ダーラム博士は、IDNの取材に応じ「国際法は極めて断片化された体系となっており、すべてを包含した一つの方法を見出してものごとを前進させるというわけにはいかないのが現状です。しかし世界各国の政府は、自国の市民がこの問題について関心を持っているということを理解する必要があると思います。」と語った。

 

オーストラリア赤十字は、核兵器の使用が人道的にどのような結果をもたらすか、その惨禍について人々が本当に理解できるよう、公共教育キャンペーンを実施する予定である。「私たちは様々なイベントを実施していきます。また11月初旬には、若者の関心を引き寄せる目的でインターネット上の教育プログラムを開始します。これは全ての人々が立ち上がって、このような兵器は決して受け入れられないと声を上げるべき問題なのです。」とダーラム博士は語った。(07.15.2011) IPS Japan/IDN-InDepthNews

 

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