|軍縮|オバマ大統領、START後継条約批准を勝ち取る

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】


12月22日、ロシアとの新しい戦略兵器削減条約(START)批准採決で、13人の米共和党上院議員が党指導層の方針に反して賛成票を投じたことで、批准に必要な上院の3分の2以上の賛成が得られた。バラク・オバマ大統領にとっては、外交政策と国内政治の両面において重要な勝利となった。

 

 

 

オバマ大統領は臨時の記者会見を開いて超党派による投票結果を歓迎し、「我々の安全保障に関して共和党と民主党が協力しているという強力なシグナルを世界に送ることができる」と述べた。

 

「これはこの20年ではもっとも重要な軍備管理上の協定である。米国はより安全になり、ロシアとともに我々の核戦力は削減されることになろう」。

 

外交政策に関しては、世界の核不拡散体制強化だけではなく、漸進的な世界の非核化推進というオバマ大統領のビジョンも保たれることになった。

 

短期的に言えば、対露関係の「リセット」というオバマ大統領の唱導してきた政策にも改めて弾みがつくことになる。イラン核開発の抑制とアフガニスタンにおける米国の対テロ戦争の遂行というオバマ政権の2大対外政策に関して、ロシアの協力を得ることが、成功の鍵を握ると考えられている。

 

ロシア政府筋も同日、ロシア国会も週末には条約案を批准する見込みだと述べた。

政局の面から言えば、これだけ多くの共和党議員がオバマ政権側に付いたということが、共和党内で少なくとも国家安全保障問題で深刻な分裂があることを示している。オバマ政権は、2011年1月からの議会で共和党が多数を占めるようになるにもかかわらず、こうした分裂を効果的に利用することができるであろう。

 

さらに、11月末の中間選挙で民主党が惨敗して以降、米議会においてオバマ政権はいくつかの得点を挙げてきたが、今回の新STARTの批准はその延長線上に起こったものである。850億ドルの減税・景気刺激予算を通過させたこと、同性愛者であることを公表した者が米軍で軍務につくことを禁止した「聞かざる、言わざる」政策を共和党右派からの激しい反発を押し切って廃止したことが特筆される。

 

ある米議会スタッフは、オバマ政権がいうところの11月選挙の「大惨敗」を念頭に置きつつ、「今回の投票結果で、中間選挙直後は言うに及ばず、ほんの1週間前に思われていたよりも大統領ははるかに影響力のある政治的プレイヤーであることを見せつけて1年を締めくくる形になった」と語った。

 

START後継条約の批准までには、3週間にわたってホワイトハウスが中心となった激しいロビー活動が行われた。国防総省、米軍幕僚、安全保障関係の元高官もこれを支援した。共和党の歴代の5つの政権から、ジョージ・ブッシュ元大統領(父)、元国務長官として、ヘンリー・キッシンジャー氏、ジョージ・シュルツ氏、ジェイムズ・ベーカー氏、コリン・パウエル氏、コンドリーザ・ライス氏が新START賛成を表明した。

 

昨年4月に署名された新条約の主要部分は比較的穏健な内容のものだと考えられている。米露両政府は、それぞれの戦略核弾頭を7年以内に1550~2200発までに削減する。

 

また、米露による相互査察の再開も盛り込まれた。ブッシュ(父)政権が1991年に結んだ第一次STARTが2009年12月に失効したため、相互査察もそこで取りやめになっていた。

 

条約の内容はこのように穏健なものであるが、共和党のジョン・カイル上院院内幹事(アリゾナ州選出)などの右派が批准に反対した。条約上の文言によって米国のミサイル防衛システムの開発が妨げられる可能性があること、ロシアの数千発に及ぶ戦術核が条約でカバーされていないことが反対の論拠だった。また検証に関する条項が不適切だという意見もある。

 

しかし、より強力な反対は、むしろ政局がらみのものであった。「民主党が次の会期では多数でなくなってしまうにもかかわらず、レームダック・セッション(中間選挙後から2011年1月の新会期までの残りの会期)の間に軍備管理条約を通すべきではない。」という主張である。

 

上院が5日間の審議を締めくくって条約案を賛成67・反対28で承認したことを受けて、リンジー・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)は「なぜ批准まであと5週間待てなかったのか」と不満を口にした。

 

次の会期で共和党議員が6人増えるという状況の下では、オバマ政権が条約批准を勝ち取るのはより困難で、政治的にコストの高くつくものになるものであろうことは、条約賛成派にとって自明であった。

 

そこでオバマ政権は、中間選挙を前にして、カイル議員らと協議してその他の分野で譲歩を行った。核兵器近代化5カ年計画のために850億ドルの支出を約束したのがその代表である。

オバマ政権は、カイル議員が、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州選出)の支持を受けて、条約批准の採決を翌年まで遅らせるかもしれないと示唆したことに衝撃を受けた。

 

この時点において、ホワイトハウスのロビー活動に加速がつき、平和、軍縮、宗教などの関連集団は支持者を動員して浮動的な上院議員に地元から圧力をかけさせた。

 

この時点では、共和党からはリチャード・ルーガー上院議員(外交委員会筆頭理事、インディアナ州選出)ただひとりが条約を強く支持していたにすぎなかったが、少なくとも6~7人の共和党議員が、適切な状況が生まれれば賛成票を投じる方向に傾いていた。

 

その後、ホワイトハウスは、存命のすべての元国務長官、ほとんどの元国防長官と、ジョージ・ブッシュ(子)氏を除く全ての存命の元大統領を担ぎ出した。また、条約否決でイラン問題に関してロシアからの協力が得られなくなる結果になることを恐れる主要なNATO同盟国と、主要なユダヤ系団体からの、条約賛成への強力な支持も取り付けた。これに対して、極右のヘリテージ財団、ジョン・ボルトン元国連大使(アメリカン・エンタープライズ研究所)、『ウィークリー・スタンダード』誌のウィリアム・クリストル氏などの著名なネオコン、サラ・ペイリン氏やミット・ロムニー氏などの2012年大統領選の候補者などが、批准反対の論陣を張った。

 

世論調査では条約賛成が圧倒的であったが、マコネル議員やカイル議員は右派についた。しかし、今となってみれば、これは重大な計算違いであった。21日になって、共和党のナンバー3であるラマー・アレクサンダー議員(テネシー州選出)が賛成に回ったのである。

 

アダム・ソーヤー氏は、この件についてウェブサイト「アメリカン・プロスペクト」でこう書いている。「共和党は自らを非難するしかない。なぜなら、上院共和党は批准を党派対立の問題にしてしまったからだ。もともとは共和党の大統領らが結び、民主党の大統領が更新したロシアとの協定は、いまや、オバマ政権にとっての大勝利となった」。

 

条約を支持する主要NGOのひとつ「プラウシェアーズ財団」のジョー・シリンシオーネ代表はいう。「結局のところ、共和党議員の4分の1以上が、軍指導部とほとんどの元国防長官、国務長官の意見を受け入れて、ジョン・カイル議員やジョン・ボルトンの勧告を無視したということだ」。「もっと兵器を、もっと戦争を、という彼らの極端な見解は、何がベストかを知っている人々によって拒絶された。核政策や軍事行動、軍事予算に関する今後の議論を考えると、これは希望のある兆候だと言える」。

 

こういう見立てもある一方で、オバマ政権が新START後の軍縮問題で最重要課題と位置づける包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准については、共和党右派がかつてよりも勢力を伸ばした次期の上院では困難だろうという見方がもっぱらだ。

 

結果として、オバマ政権は、戦術核兵器削減などのより穏健な合意をロシアと結ぶことを追求し、米国が長期的な目標として非核化の約束を果たしていると国際社会に印象付けようとするのではないか。

 

他方で、22日の採決はロシアとの関係改善につながるであろう。ロシア政府は、条約案の否決ないしは採決遅延を行わないよう警告する発言を今週に行っていた。

 

ジョージタウン大学「生起する脅威プロジェクト」のディラン・マイルズ-プリマコフ氏(ロシア専門家)は、「おそらく、条約が米露の核戦力に与える影響と同じく重要なのは、これが両国関係全体の改善に資するという点であろう。」「もし条約が通っていなかったら、アフガニスタンへの兵員・軍事物資輸送のためのロシア領土・空域の米国による利用は危機に瀕していたかもしれないし、国連安保理でイランに対する新制裁決議を採択する際にロシアが拒否権を行使することになったかもしれない」と語った。(IPS/12.22.2010)

 

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