From L to R: Ivana Nikolic Hughes (NAPF) , Nikolai Sokov (VCDNP) , Christine Muttonen (PNND), Chie Sunada (SGI). Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.
From L to R: Ivana Nikolic Hughes (NAPF) , Nikolai Sokov (VCDNP) , Christine Muttonen (PNND), Chie Sunada (SGI). Credit: Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director of IDN-INPS.

「世界終末時計」が真夜中に近づく今こそ核の先行不使用を

【ウィーンIDN=オーロラ・ワイス】

2026年のNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議に向けた第1回準備委員会が2週間にわたって開かれる中、国連経済社会理事会との諮問資格を持つ仏教団体創価学会インタナショナル(SGI)核時代平和財団がサイドイベントを開催した。

専門家たちは8月3日、NPTの枠組みの中で、核軍縮を進めながら核リスクの削減を促進するために、どのような政策があり得るかを探った。核時代平和財団のイバナ・ニコリッチ・ヒューズ会長、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)のクリスティン・ムットネン共同議長、ウィーン軍縮・核不拡散センター(VCDNP)のニコライ・ソコフ上級研究員の3名がパネリストを務めた。司会はSGIの砂田智映平和・人権部長が務めた。

SGIは、戸田城聖創価学会第二代会長が「原水爆禁止宣言」を発表してから50周年にあたる2007年に「核兵器廃絶への民衆行動の10年」キャンペーンを開始し、同時期に発足した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と連携しながら、核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の実現を目指してきた。

自分達の苦しみを他のいかなる国の人々にも経験させたくないと願う広島・長崎の被爆者に代表される市民社会の断固たる決意と取り組みは、2017年に核兵器禁止条約(TPNW)が採択され、21年に発効することで結実した。TPNWは、核兵器の使用や使用の威嚇に限らず、開発や保有を含む核兵器のあらゆる側面を包括的に禁止している。

SGI会長の声明

池田大作SGI会長は2023年1月11日、ウクライナ危機と核問題に関する緊急提言「平和の回復へ歴史創造力の結集を」の中で、「ウクライナ危機の終結に向けた緊張緩和はもとより、核使用が懸念される事態を今後も招かないために、核保有国の側から核兵器のリスクを低減させる行動を起こすことが急務であると思えてなりません。私が昨年7月、NPT再検討会議への緊急提案を行い、『核兵器の先制不使用』の原則について核兵器国の5カ国が速やかに明確な誓約をすることを呼びかけたのも、その問題意識に基づいたものでした。」と述べている。

リスク低減はNPT再検討プロセスにおいて新しいトピックではない。2010年NPT再検討会議の行動計画における「行動5(d)」は、核保有国に対して「核兵器の使用を防止し、究極的にその廃棄につながり、核戦争の危険を低下させ、核兵器の不拡散と軍縮に貢献しうる政策を検討する。」ことを求めている。

先制不使用の原則は、昨年のNPT再検討会議の最終声明の草案に初めて盛り込まれた。結局、先制不使用への言及は削除されたものの、最終声明は合意に至らなかった。核保有国が先制不使用の採用について話し合おうとしていたことは、稀に見る希望の光である。

NPTの中で、先制不使用の原則へのコミットメントを促進するための進展があれば、相手の出方に戦略的に反応する時間を増やして直接的なリスクを低減することで現在の緊張状態を緩和することにつながるだけでなく、同時に、軍縮への新たな道も開ける可能性がある。

中国は1964年に先制不使用を宣言

先制攻撃、第一撃、あるいは核兵器以外による攻撃への反応のいずれの形であれ、いかなる場合においても核兵器を決して先に使用しないと中国が約束したのは1964年のことで、これが核兵器国による初めての権威的な声明となった。

中国は核の先制を無条件で宣言している唯一の核保有国である。インドは、化学兵器・生物兵器に対する反撃の場合を例外として、先制不使用政策を維持している。フランス・北朝鮮・パキスタン・ロシア・英国・米国は、紛争時における核の先制使用を認める政策をとっている。イスラエルは核保有の事実そのものを認めていないことから、これに関する公的な立場は存在しない。

「私たちは皆、このような脅威について知っており、核兵器の削減や、使用禁止、廃絶、さらには核実験の禁止に向けた多くの試みなどがなされてきました。しかし同時に、私たちは現在進行形の核軍拡競争を目の当たりにしています。」とPNNDのムットネン共同議長は語った。

ムットネン共同議長はさらに、「諸国が核戦力の近代化を図り、この致命的な兵器の製造に拍車がかかっています。核爆発の人道的影響や、人為的・技術的事故の危険性についても、多くの研究がなされてきました。なかには、核紛争の結果はこれまでの推定よりもはるかに深刻であるという主張する専門家もいます。」と語った。

世界終末時計:真夜中まで90秒

世界終末時計」の設定に責任を持つ科学者たちは、「(核兵器による地球滅亡を意味する)真夜中まで90秒しか残されていない。前代未聞の危機の時代だ。」と述べている。核の危険が増し、それが同時に、もう一つの世界的な脅威である気候変動に対する人類の闘いも毀損しているとして、時計の針は進められた。

核拡散防止に取り組む75カ国以上、700人以上の国会議員で構成される世界的なネットワークPNNDのムットネン共同議長は、「国家間の不信が増している現代において、核軍縮の方途を見つけることは困難です。一国単独で、あるいは集団的に、追加の機構や制度を必要とせず、すぐに実行できる有効的な手段と考えられるのが、核の先制不使用政策の確立です。核不拡散や核軍縮を目的とした条約や相互保証などの仕組みの多くがここ数年で損なわれているか、あるいは進展していないなか、そうした保証が緊急に必要とされています。」と語った。

「核保有国は核兵器を先行して使用しないとの約束で合意すべきです。」とムットネン共同議長は述べ、核の先制不使用政策は核軍縮に向けた重要なステップになると強調した。したがって、先制不使用政策をとる中国やインドのような核保有国が、核兵器廃絶の提案を支持するのは当然である。

G20とG7

2022年11月にバリで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議では、、「核兵器の使用、またはその威嚇は許されない」ことが「バリ宣言」に盛り込まれた。しかし、広島で今年5月19日から23日にかけて開催されたG7広島サミット(主要7カ国首脳会議)では、このG20の強力な声明は再確認されず、核の脅威を低減する新たな措置も発表されなかった。

ムットネン共同議長が警告するように、G7声明は大幅に後退している。核抑止政策と、核兵器を絶対的に否定している非核兵器国の大多数が望んでいるものが乖離している様子が見てとれるだろう。ムットネン共同議長は、「しかしバリ声明が、NPTプロセスや国連総会、インドで開催されるG20サミットの中で再確認される可能性と希望はまだあります。」と指摘した。

「前進を可能にするためには、核保有国と関与し続けなければならなりません。つまり対話が必要で、外交を復活させなければなりません。今、最も重要なことは、各国共通の安全保障として、核兵器が使用される可能性を減らすことです。従って、すべての核保有国と同盟国は、先制不使用を誓約すべきです。」とムットネン共同議長は付け加えた。

議員の重要な役割

国会議員とは法律を作る人々のことだが、まさにそこにこそPNNDの役割がある。たとえば予算の策定に議員が果たす役割は大きい。外交政策、外交、不拡散、軍縮について彼らは権限を持ち、大量破壊兵器にさらなる予算をつぎ込むことすらできる。議員らは国家の政策策定に関わり、市民社会と直接のつながりを持っている。市民社会と議員らは通信網のように相互につながっている。そして互いに影響を及ぼす。

「国会議員は政府に圧力をかけることができ、市民社会はその支援を行うことができます。つまり、議員は自身の選挙区やメディアに情報を提供し、国民の認識や政治的優先順位に影響を与えることができるのです。議員らは、PNNDメンバーのリーダーシップを通じて、国内議会や、欧州安全保障協力機構(OSCE)議員会議や列国議会同盟(IPU)などの議会間組織において、核先行不使用政策を前進させるための活動に熱心に取り組んでいます。そして彼らは、OSCE議員会議に対して、核リスク削減、先制不使用、包括的核軍縮に関する段落をOSCE議員総会の最終宣言に採択させる必要があります。」とムットネン共同議長は語った。

「核兵器が廃絶された世界はすべての人々が繁栄する世界」というのが核時代平和財団の目標である。その任務は「核兵器のない、公正で平和な世界の実現に向けて、人々を教育し、啓発し、行動を促すこと」にある。1982年に創設された同財団体は、世界各地の個人や団体からなり、国連経済社会理事会で諮問資格を持ち、国連から平和メッセンジャー団体として認められている。

核時代平和財団

2014年、核時代平和財団は、マーシャル諸島が9つの核保有国(米国・英国・フランス・ロシア・中国・イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮)を国際司法裁判所と米連邦裁判所で提訴するにあたって、同国政府と協議を行った。この訴訟は、これらの国々が核兵器を完全に廃絶するための交渉を進めるという国際法上の義務を遵守していないと主張するものであった。

CTBTO

核時代平和財団のイバナ・ヒューズ会長は、「ソ連はカザフスタンの平原で核実験を行い、放射線被爆によって今日まで奇形児が生まれています。英国は、現在はキリバス共和国の一部となっているクリスマス諸島や、オーストラリアの先住民族居住区でも核実験を行いました。フランスはアルジェリアの砂漠で核実験を行い、砂の中に放射線まみれの機材を埋めました。また、フランス領ポリネシアでも核実験を行い、最近の研究ではフランス政府の主張よりも放射線のレベルが高いことが分かっています。」と語った。

ヒューズ会長は、ダニエル・エルズバーグ氏と彼の著書『世界滅亡マシーン』に言及した。エルズバーグ氏は、米国の70年に及ぶ隠蔽された核政策の危険性を初めて暴露した伝説的な内部告発者として知られている。かつて大統領の顧問を務めた彼が「ペンタゴン・ペーパーズ」を持ち出した時、1960年代の米国の核開発計画に関する最高機密文書も持ち出した。『世界滅亡マシーン』は、文明の歴史において人類が作り上げてきた最も危険な軍備をエルズバーグ氏が説明したものであり、この核兵器は人類の生存そのものを脅かしている。

2023年6月に死去したエルズバーグ氏は、この著書の中で、「歴史的な、あるいは現在の核政策についての典型的な議論や分析に欠けているもの、つまり見過ごされているものは、議論されていることがめまいがするほど非常識で非道徳的であるという認識である。ほとんど計算不可能で、想像を絶する破壊力と意図的な殺戮行為、危険を冒して計画された破壊力と宣言された目的または認識されていない目的との不釣り合い、密かに追求された目的(アメリカと同盟国への損害限定、両面核戦争における「勝利」)の実現不可能性、(法、正義、犯罪に関する通常のビジョンを爆発させるほどの)犯罪性、知恵や思いやりの欠如、罪深さと悪においてである。」と述べている。

「米国の核政策は狂気の沙汰であり、完全に考え直さなければなりません!」とヒューズ会長は強調した。そして、あらゆる政府の機密文書が明らかにした共通点、すなわち、核兵器を作動させたいという欲望について言及した。「酔っぱらったリチャード・ニクソン大統領も同じことをしようとしましたが、側近たちが止めました。問題は、ニクソン大統領以降、どれほど多くの大統領がまともな責任を取れるのか、ということです。」とヒューズ会長は問いかけた。

ニクソンとブッシュは原爆を待機させた

最近暴露された政府文書によると、ニクソン大統領は1969年、米国のスパイ機撃墜事件を受けて、北朝鮮に対する核攻撃のために核爆撃機の発進準備を命じたと考えられている。ニクソン大統領は統合参謀本部に接触して、戦術的核攻撃の計画を立て標的の候補を示すよう命令した。当時ニクソン大統領の安全保障顧問を務めていたヘンリー・キッシンジャー氏は、大統領が翌朝しらふの状態で目覚めるまでは命令を実行しないよう、統合参謀本部に電話をかけていた。

ニクソン大統領が共産主義者らに核攻撃に関する自身の本気度を見せたかったのだと推測できる根拠はある。その後、ニクソン大統領はソ連に対して核爆撃機を差し向け、自身が第三次世界大戦を引き起こしかねないほどの狂気の人物であるとの噂を流した。もちろん彼は狂気ではなかった。アンソニー・サマーズ氏とロビン・スワン氏の2000年の著書によって、ニクソン大統領は単に酩酊していただけだということが判明した。ニクソン大統領にあったのは権力ではなくアルコールだった、と核時代平和財団のヒューズ会長は指摘した。

現在の米国の核政策は、核攻撃を命令する大統領の能力に制約を課していない。軍には、戦争法に違反するとみられる命令を拒絶できる権利があるが、戦力使用の権限を与える議会の役割については法的な疑念が出されている。それでも、広範な理解として、大統領はいつでも、いかなるときでも核兵器を発射することができる。

核先制不使用政策の採択によって、宣戦布告する議会の憲法上の権限が再確認されることになる。憲法は、大統領が自らの判断のみに基づいて戦争を始めることはできないことを明確にしており、大統領が単独で核戦争を始められなくすることには意味がある。

核のリスクは消えない―事故であれ意図的であれウィーン軍縮・不拡散センターのニコライ・ソコフ上級研究員は、核兵器近代化に関するソ連・ロシアの歴史的観点を提示し、ロシアの戦略核の将来的な進化を予測した。ロシアの核はいまやベラルーシに配備されようとしている。この状況下では、どんな挑発行為がロシア・NATO諸国間の直接的な軍事行動の引き金になるかわからない。

ソコフ氏はまた、ロシアが戦争初期に核兵器に言及したのは非合理的だと指摘した。核のエスカレーションの脅しは、西側諸国のウクライナ支援の意図をくじく十分な材料とはならなかった。むしろこの脅しは、ウクライナ侵攻に関してロシア指導部が感じている不安感を反映したものであろう。

核兵器の使用は、それが事故であれ意図的なものであれ、受け入れがたい結果をもたらすという点で、専門家たちの意見は一致している。核先制不使用政策を採択し、核兵器使用の威嚇をやめることで、核の大惨事のリスクは低減できる。さらに大胆な方策は、国連の核兵器禁止条約を通じて核兵器そのものを廃絶してしまうことだ。国連のアントニオ・グテーレス事務総長が強調したように「核兵器が我々を滅ぼしてしまう前に、核兵器を廃絶しなくてはならない。」のである。(08.11.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews