Image credit: UNODA
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非核世界は若いリーダーから始まる

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連はいまや、「核兵器なき世界」を実現するためには、未来の若いリーダー達を中心に始めるべきだと考えている。

この大胆な目標を追求するにあたって、国連軍縮部と日本政府は、この殺戮兵器を世界からなくすことに貢献するための革新的な学習プログラムへの応募を若者たちに呼びかけている。

「ユース非核リーダー基金」と呼ばれる世界的な研修プログラムの公募が始まっている。

国連軍縮部が運営し、日本政府の財政負担によって可能となったこの研修プログラムは、18歳以上の若者を対象に最大100名の奨学金を提供する。

岸田文雄首相は昨年8月、核不拡散条約(NPT)第10回再検討会議の場において、この新たな軍縮教育・人材育成を目的としたプログラムのために国連に対して1000万ドル(約13・3億円)を拠出すると表明した。日本政府はこのイニシアチブを通して、世界から若者らを広島・長崎に招き、被爆の実相に触れもらい、原爆の惨禍を世界に伝えることをめざす。

国連軍縮部は、「核兵器は戦時に使用されたのは2回(1945年の広島・長崎への原爆投下)のみだが、現在も約1万2500発ほどの核兵器があり、これまでに2000回以上の核実験が行われてきた。1発の核兵器が都市全体を破壊し、何百万人もの命を奪う可能性があり、その長期的な破滅的影響によって自然環境と次世代の生命を危険にさらす。」と述べている。

このプログラムは、より平和で安全な、「核兵器のない世界」に向けた変化を生み出すために自らの才能を用いる意欲のある若者たちを支援するもので、その意図は、核兵器国、非核兵器国の双方から核不拡散・軍縮を主唱する未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらうことを主要な目的としている。

さらに、政府、市民社会、教育、研究、メディア、産業等の分野からの未来のリーダーや主要な役割を担う多様な人材による、グローバルなネットワーク作りを目指している。

「平和・軍縮・共通の安全保障を求めるキャンペーン」の代表で「国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人であるジョセフ・ガーソン氏は、「国連軍縮部の『ユース非核リーダー基金』について読んで勇気づけられました。国連軍縮部は核戦争防止と軍備管理・軍縮のために粘り強く活動することで、世界の人々にとってかけがえのない存在となっています。とはいえ、私の希望は、将来のリーダーを嘱望された研修生が、単に歴史や外交・ロビー活動のスキルを学ぶにとどまらず、限界を乗り越え、正統でない権威に疑問を呈し挑戦し、時には、核のアルマゲドンを容認しその準備を進める権力側の平和をかき乱す活動へと市民社会を導くようになってほしい。」と語った。

ガーソン氏はまた、「せっかく築いた軍備管理秩序が崩壊し、人類はその生存を脅かす核戦争の危機に直面しています。一方で、ロシアのクリミア支配が脅かされた場合、自暴自棄になったプーチン大統領が戦術核兵器で対応するという脅しを実行する恐れがある。」と警告した。

「そのようなことがあればウクライナにとっては大量虐殺的な意味を持ち、さらなる核のエスカレーションにつながる可能性もあります。他方で、1945年の広島原爆の爆心地近くの碑の前でG7首脳が立って写っている写真は、オーウェル的な『同意の調達』のためのものです。ここに写っている男女は、核兵器の先行使用を命令することができる存在だ。あるいは、日本の岸田文雄首相の場合、米国の核先行攻撃に依存した軍事戦略を持つ国を率いる存在です。」と、ガーソン氏は語った。

人類は、核戦争と気候変動という2つの差し迫った存亡の危機に直面しているという現実がある。2010年のNPT再検討会議を前にして、当時の潘基文国連事務総長は、世界中から集った約1000人の核廃絶活動家らに対して、「諸政府が非核世界をもたらしてくれるわけではない。」と発言している。

「核廃絶は下からの圧力によってのみ実現が可能です。今回の研修プログラムに参加する市民社会の若いリーダーたちは、核軍縮に向けた諸政府による新たな公約を勝ち取り、人類の生き残りを図るうえで必要な民衆からの圧力を形成するために、時には声をあげることも求められています。」とガーソン氏は語った。

他方、国連軍縮部は、研修参加者は今後2年で核軍縮や不拡散、軍備管理についてオンラインで学び、一部の参加者は広島・長崎での1週間の実地研修に臨む、としている。

未来のリーダー候補らは、各種シンクタンクや市民団体、メディア、外交官などの軍縮専門家と意見交換し、核軍縮や不拡散、軍備管理に関連した問題に関与し貢献する実践的なノウハウを身につけていく。

参加者らは「ヒバクシャ」と呼ばれる広島・長崎の原爆投下を生き延びた方々から教訓を学ぶことができる。被爆者らは、核兵器が引き起こす想像を絶する苦しみについて世界に訴えてきた。ヒバクシャの高齢化が進む中、彼らの力強い語り口と核兵器廃絶の訴えを未来世代に継承していくことが重要となる。

本プログラムは2023年に始まり、2030年まで続く予定だ。2030年は、広島・長崎への原爆投下から85年、核不拡散条約(NPT)発効から60週年に当たるなど、さまざまな節目の年でもある。

プログラムに参加した研修者らは、次の世代の若い核軍縮活動家を育て導く重要な役割を担うことになる。「ユース非核リーダー基金」による研修プログラム第1期生(2023~25年)に続いて研修は第4期まで行われる予定だ。プラスの波及効果を生み出し、人類を核兵器から救うという共通の目標を持つ才能ある未来のリーダーたちの世界的ネットワークが強化される予定だ。

教育やスキルの研修、指導、その他の支援を通じて、参加者がプログラム参加後もそれぞれの関心分野と専門領域において軍縮や平和・安全保障の活動を続けていくことが期待されている。

近年、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、若者の役割が究極の変革の力であることを認識し、軍縮の大義を支持する若者の力が証明されたと指摘し、若者のエンパワーメントを大きく後押ししている。(05.31.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews