Image: President of the 10th RevCon Gustavo Zlauvinen opening the Conference in the UN General Assembly Hall on August 1, 2022. Credit: UN
Image: President of the 10th RevCon Gustavo Zlauvinen opening the Conference in the UN General Assembly Hall on August 1, 2022. Credit: UN

|視点|戦時のNPT再検討プロセス(セルジオ・ドゥアルテ科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議議長、元国連軍縮問題上級代表)

【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

「諸国が、国際連合憲章に従い、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならないこと並びに国際の平和及び安全の確立及び維持が世界の人的及び経済的資源の軍備のための転用を最も少なくして促進されなければならないことを想起して…」(NPT前文より)

ロシアによるウクライナ戦争が収束しない中、核不拡散条約(NPT)の締約国は、2026年のニューヨーク会議に向けた11回目の条約再検討サイクルに入ろうとしている。

今回の紛争に直接または間接的に関与するすべての国が条約の締約国であり、その一部は核兵器国、あるいは自国内に核の配備を認めている国々でもある。核兵器が遅かれ早かれこの戦争で使用されてしまうのではないかという国際社会の恐れが、無謀なレトリックによって再び高まっている。

こうした恐るべき見通しがあるなか、核不拡散・軍縮体制の健全性を保ち、国際の平和と安全を維持するために、NPTの起源や履行、目的に関連したある側面や、条約の再検討プロセスの重要性を想起しておくことが有益であろう。

1946年、核兵器廃絶のための具体的な提案を行うために設立された国連委員会は、米ソ両大国間の角逐と不信のために、その任務を果たすことができなかった。その後、国際社会の大部分は、核廃絶達成に向けた中間的な措置として、核保有国の数を抑えることが共通の関心事であるとの認識を強めていった。

核不拡散条約への支持は、そうした条約が核軍縮という共通の目標に向かって前進するものになるだろうとの期待とともに高まった。

こうして、無投票で1965年に採択された総会決議2028(XX)は、18カ国軍縮委員会(ENDC)に対して、そうした条約の協議を行い基本原則を定義するよう要求した。そうした原則の最初の3つのものは、以下のようになっていた。1)その条約にあっては、核兵器国・非核兵器国のいずれも、いかなる形においても核兵器の拡散を認めてはならない。2)核兵器国と非核兵器国との間で相互の義務を容認できる形でバランスよく定めねばならない。3)条約は核軍縮に向かう一歩とされねばならない。

1965年から68年の間に、ENDCは提出された条約草案をバラバラに協議し、のちには、米ソ代表の共同議長という形で審議を行った。68年5月、最終文言に対する全会一致の合意がみられない中で、共同議長は草案への修正を提案し、彼らの責任において草案を国連総会へ送った。

さらなる審議と修正ののち、国連総会は1968年6月12日、賛成95・反対4・棄権21でついに条約案を決議2373の形で採択し、条約を諸国の署名に開放した。それから数十年、NPTは核軍備管理の分野において最も締約国の多い条約となった。今日、非締約国はわずか4つしかない。しかし、条約成立52年を経てもなお、大きな意見の対立がみられる。これまでに開催された10回の再検討会議のうち6回は、最終文書に関するコンセンサスが得られないまま終了している。

NPTは明確に、他国が追随することを防ぐという核保有国の強い関心を反映している。その主要な条項では、1967年1月1日以前に核兵器を爆発させていない国が、いかなる手段によってもそのような装置や武器を取得することを禁止するように設計されており、その義務を検証するシステムを確立している。

条約のどこにも、核軍縮に対する明確なコミットメントを記した条項はない。第6条の下では、すべての締約国が「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」とされているのみである。

しかしそのような協議はまだ始まっていない。米国とロシアの2大核保有国は、数十年にわたり、核弾頭や発射台の数を大幅に削減した2国間条約(=新戦略兵器削減条約)をはじめ、核戦力の制限や削減に関する多くの協定を締結してきた。

この条約は2026年までは有効だが、その他の過去の条約はすべて失効するか、破棄されるかしてきた。フランスと英国は自らの核戦力の規模に自主的な制限を課している。これらの協定や決定はNPT自体との有機的な連関がなく、核兵器の廃絶を想定しているものでもない。

NPTの非核加盟国は、いずれも核兵器を保有していない。この規範を回避しようとしたとされるいくつかの試みは、外交的または軍事的圧力によって阻止された。一部の国は「潜在的核保有」の状態にあり、核能力を急速に構築することが可能だと見られているが、これは間違いなく大きな国際的危機を引き起こし、これらの国々にとっては好ましくない帰結を生み、核不拡散体制への信頼性が失われるか、場合によっては崩壊させる可能性もある。

1995年、NPT再検討・延長会議は条約の無期限延長を決定した。この決定は、2つの互いに交わらない国々の集団の間の分断を固着化させることになった。すなわち、NPTによって「核兵器国」と認められた国々と、国際社会のその他の国々との間の分断である。

これら5カ国は同時に国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、その決定にあたって拒否権を発動することができる。核兵器を取得しているがNPTに加入していない4カ国は「事実上」の核保有国だとみなされている。NPT第9条3項に定められた時間的な制約によってはこの状況を変化させることはできない。いくつかの締約国の利益の間には対立があり、条約改正もままならないであろう。

NPT成立からの30年間で条約がほぼ普遍的なものになったことで「水平」拡散のリスク、つまり保有国数が増加するリスクは大幅に減少した。国際社会の大部分が核兵器を保有しない法的義務を受諾した理由としては、NPTに加盟することで得られる利点の他に、別の理由も指摘できる。

つまり多くの国は、核爆発装置とその運搬手段を維持するために必要な経済的・財政的・産業的・技術的資源がなく、安全保障上の理由を欠いているのである。核保有を検討するかもしれない中規模国家の場合は、自国の防衛と安全保障のニーズは他の手段で満たす方が良いと考えているようだ。

現在の世界情勢において、NPTの非核保有国が核武装することは、望ましくない危険な地域競争を引き起こすことは間違いない。しかし、一部の国では、独立した核戦力を求める動機と圧力が、世論の一部に依然としてみられる。

NPT第3条は、非核兵器国が受諾した義務によって、条約遵守を検証するための効果的なシステムに関する法的基礎が提供されている。第6条は、核軍縮に向けた可能な行動について言及するのみであり、特定の措置やスケジュールについても、ましてやその結果を達成すべき期限についても定めていない。核軍縮に関する明確な義務が存在しないことで、その方向に向けた多国間のコンセンサスを作り出すことがより難しくなっている。

核兵器国とその同盟国が強く主張した1995年の条約無期限延長に沿って、合意された原則や目標に基づいた条約再検討プロセスが強化され、進展がもたらされるのではないかと期待が高まった。これに沿って、2000年の再検討会議では「核不拡散・軍縮に向けた13の実践的な措置」などの重要な合意がなされた。

しかし、この期待は長続きしなかった。2005年の次の再検討サイクルでは、主要国間の関係が急激に悪化し、過去の公約が放棄されたり否定されたりする中で、さらなる建設的な決定を求める意欲は失われた。締約国は、わずか5年前に達成された理解を認識することにさえ合意することができなかった。

この時の会議は、会期のかなり遅い段階まで意味のある話し合いをすることができず、実質的な成果文書を生み出すことができなかった。その5年後の2010年の会議では、2回連続で失敗してはならないという決意に満ちた努力があり、ほとんどの関連事項について真摯な話しあいがなされた。幅広い関心を反映して、提案された行動のリストは長いものになったが、それをフォローする行動がなかった。

最も重要な成果は、最終文書が核爆発の「壊滅的な帰結」について認識したことであろう。これが2017年の核兵器禁止(核禁)条約の交渉・採択の基礎となった。核兵器国とその同盟国からの激しい反対にも関わらず、核禁条約は2021年に発効した。その意義と波及力は疑うべくもなく、加盟国の増加は、国際社会が核兵器を拒絶している事実を表している。

1995年以前に開催された、いくつかの再検討会議が失敗したのは、フォローアップ措置に合意できなかったことが大きな原因であるが、この年以降、再検討会議の帰趨は、条約の欠陥(特に核不拡散と軍縮の約束の間の内蔵の不均衡)よりも核保有国間の関係に大きく左右されていたようである。

50年以上に及ぶNPTの歴史の中で、締約国はこの制度に一貫した忠誠を誓い、その枠組みの下で協力し続ける意思を示してきたと認識するのが公正であろう。この関連で、2015年と2022年の会議の際に議長が提示していた最終文書案の文言に対しては、過去の合意に比べれば後退していると認識されつつも、圧倒的大多数の国々が支持を与えていたという事実を想起することができよう。核兵器国がいずれの場合にあっても反対を唱えて、全会一致での文書採択には至らなかった。明らかに、これらの反対論は、条約の再検討そのものに対してというよりも、それぞれの国の地政学的な現実と関連した特定の利益に関係したものであった。

ウクライナでの戦争は2026年再検討会議の準備に明らかにマイナスの影響を及ぼすだろう。現時点では、あと数か月で戦争が終わるとは考えにくい。NPTの行く末を政治的現実全体から切り離すことなど土台不可能だが、条約再検討プロセスと条約の権威そのものを戦争の犠牲とすることはあってはならないだろう。現在の核不拡散・軍縮体制の欠陥に対処しそれを改善するための熱心な取り組みが、次の再検討サイクルには含まれてくることだろう。

遅かれ早かれ、いや、願わくはできるだけ早く、この無意味で破滅的な紛争が終わりを迎えてほしい。もし我々が幸運ならば、この戦争の帰結は、交戦当事国のみならず人類文明の大半を巻き込む相互確証破壊(=核戦争)で終わるのではなく、合理的かつ包摂的、公正で生産的な国際社会を再編成し、多国間協定への信頼を回復するための新たな機会を提供するものとなるだろう。

新しく、より公正で包摂的な安全保障のパラダイムを構築するためには、すべての当事者が自己中心的な態度を抑え、効果的で永続的な国際安全保障の仕組みは核兵器の存在とは相容れないことを明確に認識することが必要だ。すべての国家が安心感を得るまでは、どの国家も安心とは言えないだろう。(02.08.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews

※著者のセルジオ・ドゥアルテは、元国連軍縮問題上級代表で、現在は「科学と世界情勢に関するパグウォッシュ会議」議長。