Photo: U.S. Air Force Staff performing a simulated missile reduction in accordance with the New Strategic Arms Reduction Treaty on Minot Air Force Base, N.D., 2011. Credit: Flickr/US Air Force
Photo: U.S. Air Force Staff performing a simulated missile reduction in accordance with the New Strategic Arms Reduction Treaty on Minot Air Force Base, N.D., 2011. Credit: Flickr/US Air Force

核兵器の近代化が進む中、さらなる核兵器の脅威にさらされる世界

【国連IDN=タリフ・ディーン】

世界で進む核兵器の近代化により、そう遠くない未来に致死的な兵器が増加する恐れがある。

この厳しい予測は、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月13日に発表した最新のシプリ年鑑(SIPRI Yearbook 2022)によるものである。

重要な調査結果の一つは、2021年に核弾頭数がわずかに減少したにもかかわらず、今後10年間で核弾頭数が増加すると予想されることだ。

世界の9つの核保有国-米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)-は、核兵器の近代化を続けている、と報告書は述べている。

SIPRIの大量破壊兵器プログラムのディレクターであるウィルフレッド・ワン氏は、「すべての核保有国が核兵器を増やし、改良しており、そのほとんどが核のレトリックを鋭くし、軍事戦略において核兵器が果たす役割を強めています。これは非常に憂慮すべき傾向です。」と語った。

シプリ年鑑によると、2022年初頭の推定12,705個の核弾頭のうち、約9,400個が使用可能な状態で軍に備蓄されていた。そのうち3,732発がミサイルや航空機に搭載され、約2,000発(ほぼすべてがロシアか米国のもの)が厳戒態勢で運用されていると推定される。

2021年を通じて、両国の使用可能な軍事備蓄の核弾頭数は比較的安定していた。しかし、両国の戦略核戦力の配備は、二国間の新戦略兵器削減条約(2010年の戦略核兵器の更なる削減と制限のための措置に関する条約、新START)で定められた範囲内であった。また新STARTは、非戦略核弾頭の総保有量を制限していない。

SIPRIの核軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの上級研究員で、米国科学者連盟(FAS)の核情報プロジェクトのディレクターであるハンス・M・クリステンセン氏は、「冷戦終結後、世界の核兵器を特徴づけてきた削減が終了したことを示す明確な兆候がある。」と語った。

タリク・ラウフ国際原子力機関(IAEA)前渉外政策調整部検証安全保障政部長は、IDNの取材に対して、「2021年2月の新START延長と6月のジュネーブにおける米ロ首脳会談を受けて、戦略の安定とさらなる核軍縮のための暫定的な対話が開始されました。しかし、この対話は、ロシアのウクライナ軍事侵攻(昨年2月)を受けて中断し、現在は残念ながらさらなる核軍縮の見通しは立っていません。また、中米間の核軍備管理対話も欠落したままです。」と指摘した。

国連安保理常任理事国でもある現在のNPT上の核兵器国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)は、核軍縮の義務を果たしておらず、他の4つの核保有国も制約を受けないままである。

「世界は再び核戦争の危険が高まる危険な時代に入り、9つの核保有国すべてで首脳のリーダーシップが欠如しており、改善の見込みはほとんどありません。」とラウフ氏は警告した。

1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)と国連の核兵器禁止条約(TPNW)に携わったアクロニム軍縮外交研究所事務局長のレベッカ・ジョンソン博士は、IDNの取材に対して、「恐ろしいことに、冷戦終結時に政府がすべての核兵器を廃絶できなかったことが、いま悲惨な結果をもたらしています。ウクライナ侵攻後のウラジーミル・プーチン大統領による核の脅威は、いかなる政府にも核兵器を保有させることが人類にとって実存的な危険であることを示しています。」と語った。

また、「もし、このような政治指導者の強欲と近視眼を止められなければ、数十年前に環境破壊をもたらす化石燃料に固執して気候変動に対処できなかった政府や産業のように、世界を破壊してしまうかもしれません。世界の安全保障のために責任ある行動ができないことが明らかな核中毒者とガス中毒者を止めるために、私たち、民衆が一緒に行動することが重要です。」と語った。

「1980年代に市民社会が立ち上がり、核兵器や核基地が削減され始めたが、その結果、核軍縮ではなく、核管理が行われるようになったのです。」とジョンソン博士は指摘した。同氏は、1982年から87年までグリーナムコモン英空軍基地周辺の「女性平和キャンプ」に滞在し、NATOの中距離核ミサイル配備に反対する運動を展開したため投獄された経験を持つ。

核不拡散条約(NPT)が1995年に無期限延長された後も、核兵器の増強は続けられた。核武装国は5カ国から9カ国に増え、いずれも軍事費を増やし続けている。

「こうした背景があったからこそ、大多数の国や 人々が集まって、2021年にTPNWを発効させることができたのです。あとは国際人道法との兼ね合いで、この条約を機能させなければなりません。」

「優先すべきは、TPNWの法的な禁止事項、規範、要件を強化し、定着させることにあります。さらに、核の脅威を常態化し、戦術兵器と戦略兵器、あるいは第一次利用と第二次利用の区別を殊更に強調することによって、核使用の結果を無視しようとする人々の議論に付随する危険性を認識することが重要です。」

「このような偽りの区別は、報復核攻撃を正当化するのに役立ち、大量殺人、核の冬、世界的な飢餓という恐ろしい結果を伴う核戦争を可能にするのです。核兵器の運搬範囲や弾頭の大きさに関係なく、核兵器の使用は人道に対する罪として告発されなければなりません。」とジョンソン博士は語った。

SIPRIによると、英国は2021年、数十年にわたる漸進的な軍縮政策から一転して、核弾頭の総保有量の上限を引き上げる決定を発表した。中国やロシアの核の透明性の欠如を批判する一方で、英国は今後、同国の運用中の核兵器の備蓄量、配備済み核弾頭やミサイルの数値を公にしないことも発表している。

2021年初頭、フランスは第3世代の原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の開発計画を正式に開始したと指摘した。

インドとパキスタンも核兵器を拡大しているようで、両国は2021年に新型の核運搬システムを導入し、開発を続けている。

核兵器保有を公にしていないイスラエルも、核兵器の近代化を進めているとみられるとSIPRIは指摘した。

一方、北朝鮮は引き続き軍事核計画を国家安全保障戦略の中心的な要素として優先している。北朝鮮は2021年中に核実験爆発や長距離弾道ミサイル実験を行わなかったが、SIPRIの推定では、現在最大20個の弾頭を組み立て、合計45〜55個の弾頭に十分な核分裂性物質を保有していると見られている。

SIPRI大量破壊兵器プログラムのマット・コルダ研究員(FAS核情報プロジェクトの上級研究員)は、「核保有国が軍縮のために直ちに具体的な行動をとらない場合、世界の核弾頭の在庫はまもなく冷戦後初めて増加に転じるかもしれません。」と語った。

さらにジョンソン博士は、「イラク、アフガニスタン、ウクライナでの戦争やその他の世界各地の武力紛争が明らかにしているように、軍国主義、核の脅威、環境破壊は、あらゆる人々に対する暴力、家父長制、産業の連続的な危害の一部に他なりません。」と語った。

核戦争を防ぐには、何百万人もの立派で勇気ある人々が、卑劣な者たちを失脚させ、軍縮と平和のために行動を共にすることが必要である。

「女性は、暴力的な脅威を拒否し、平和的な関係を築き、地球の資源を共有するための持続可能な方法を生み出す最前線にいます。だからこそ私は、核軍縮、気候変動への正義、そして平和のために、執筆、講演、行動を続けているのです。」

「私はCOP26に参加するためにグラスゴーに滞在し、6月21日から23日に開かれるTPNW第1回締約国会議に提出するTPNWの履行に関するワーキングペーパーを作成しました。 各国政府は、(核禁条約に加盟して)核兵器の威嚇や使用が許されない環境になれば、私たちのリードに従うでしょう。そして、核兵器の製造や配備に資金を費やすことをやめることになります。」

「私たちは核兵器の使用を止め、すべての核兵器を廃絶することができます。私たちは戦争に反対し、すべての国際条約と協定を軍縮、平和、環境のためにもっと効果的に機能させるために協力しなければなりません。」とジョンソン博士は語った。(06.13.2022) INPS Japan/ IDN-InDepth News