Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna
Photo: Applause after the adoption of the political declaration and action plan as 1MSPTPNW ended on June 23 in Vienna. Credit: United Nations in Vienna

核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、ウィーンで開催されていた核兵器禁止(核禁)条約の第1回締約国会議(6月21日~23日)にビデオメッセージを寄せたが、そのなかで行った警告はまさに的を射たものだった。

「核兵器がわれわれを滅ぼす前にわれわれが核兵器を廃絶しよう。」―グテーレス事務総長はこう述べて、国際社会が対話と協調を通じた問題解決ができていない現実を、核兵器という致命的な存在が想起させている点を指摘した。また、「核兵器は安全と抑止という誤った約束を提供しますが、実際には、破壊と死、際限なき瀬戸際政策をもたらすだけです。」と語った。

グテーレス事務総長はさらに、核禁条約の履行の方向性を定めることになる「核兵器のない世界へのコミットメントに関する宣言」(「ウィーン政治宣言」)と「ウィーン行動計画」の採択を歓迎し、「核兵器のない世界という私たちの共通の目的に向かった重要なステップである。」と指摘した。

戦争を超える世界」「宇宙への兵器と原子力の配備に反対するグローバルネットワーク」の理事であるアリス・スレイター氏はIDNの取材に対して、「ウィーンでの核禁条約第1回締約国会議が前例にとらわれない形で開かれたのに対して、戦争と対立の暗雲が世界を覆い始めている。」と指摘したうえで、「私たちは、ウクライナでの暴力が続き、ベラルーシとの核共有の可能性も含めてロシアが新たに核の恫喝を繰り返す様子を目の当たりにしています。

一方、米国はベルリンの壁が崩壊しワルシャワ条約機構が解体されたときに、北大西洋条約機構(NATO)をドイツの東側にまで拡大することはないとゴルバチョフ氏に約束したにも関わらず、ウクライナに対して数十億ドル規模の武器を送り込み、フィンランドとスウェーデンをNATOに取り込んでその境界を無思慮にも拡大しようとしています。そうした中でこの事態が進行しているのです。」と語った。

西側主要メディアはウラジーミル・プーチン大統領に厳しい論調の報道を継続する一方で、ウィーンで画期的な政治宣言が採択されたにも関わらず、ほとんど核禁条約に言及していません。」とスレーター氏は語った。

核時代平和財団のニューヨーク支部長でもあるスレーター氏は、「締約国は、核禁条約と核不拡散条約の相互補完関係を十分に認識したうえで、例えば、時間の期限を設けて核兵器の完全廃棄を監視・検証するステップを設定する等、核禁条約が規定している多くの約束を果たすための仕組みを確立すべく、思慮に富んだ行動計画を採択しています。締約国は、長年にわたって貧困層や先住民族コミュニティーで行われた核実験や兵器開発、廃棄物汚染などの被害に遭った犠牲者や環境汚染に対して、前例のない援助を展開する(「被害者援助と環境修復」第6、7条)ためのスキームに合意しました。」と語った。

ブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)公共政策大学校リュー・グローバル問題研究所長で、「軍縮・グローバル・人間安全保障問題」の教授を務めるM・V・ラマナ教授はIDNの取材に対して、「核禁条約の締約国会議は、今日の世界が直面している危険な核の状況から抜け出すための数少ない意義ある方法を提示しています。ロシアのウクライナ攻撃と核による威嚇は、核兵器が存在する限り、稀にではあっても使用されうるという事実を再認識させるものとなりました。」と語った。

「内部告発者」として有名なダニエル・エルズバーグ氏が数十年来指摘してきたように、核兵器は、(広島・長崎で起こったように)敵の標的の上で爆発するという意味と、核兵器の保有者にとっては容認できないことを敵方が行った場合に核兵器を使用すると脅すという意味の両方において、使用されえるのである。

「これは、通常の状況の下ではやりたくないことを、銃を突きつけることで無理やりやらせることに似ています。後者の意味においては、この大量破壊兵器を保有する国々によって、核兵器は繰り返し『使用』されてきたのです。」とエルズバーグ氏は語った。

従って、核禁条約の締約国が「最後の核弾頭が解体・破壊され、核兵器が地球上から完全廃絶されるその日」まで、弛まず行動すると公約したことは、歓迎すべきことだ。

「これは、すべての国が目指すべき目標であり、緊急に取り組むべきものです」と、ラマナ博士は語った。

2017年にノーベル平和賞を受賞した反核団体である「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、「今回の会議は、核兵器の壊滅的な人道的影響とその使用による受け入れがたいリスクに基づき、核兵器を廃絶するための断固とした行動という、TPNWの理想そのものを如実に反映したものとなりました。」と振りかえった。

フィン事務局長は、締約国会議の閉幕にあたって、「締約国は、被害者や影響を受けた地域社会、市民社会と協力して、この決定的に重要な条約の履行に向けたあらゆる側面を前進させる具体的かつ実践的な行動について幅広く合意するためにこの3日間多大なる努力を行ってきました。こうやって私たちは核兵器禁止の強力な規範を形成してきたのです。高邁な声明や空虚な約束を通じてではなく、諸政府や市民社会から成る真にグローバルなコミュニティーを巻き込んだ、実践的で具体的な行動を通じてです。」と語った。

締約国会議では、条約の履行に向けた実践的な側面に関する決定が6月23日になされた。

例えば:

・核兵器のリスクや核兵器が人間に与える被害、核軍縮などに関する研究を前進させ、条約の効果的な履行に関連した科学技術的問題に対処し、締約国に助言を与える「科学諮問グループ」の設置。

・条約に加盟する核保有国による核兵器廃棄期限を10年以内とすること(最大5年の延長可)。他国の核兵器の配備を認めている国は、[条約加盟後]90日以内に撤去させる。

・条約普遍化、被害者援助・環境修復、国際協力・支援に関する調整委員会や非公式作業部会の設置など、今回の会議のフォローとなる会期間作業プログラムの確立。核兵器廃棄を監視する「権限のある国際当局」の指名に関連した作業の実行。

締約国会議前夜、カーボベルデ・グレナダ・東ティモールが批准の寄託書を送付し、締約国数は65となった。また、ブラジル・コンゴ民主共和国・ドミニカ共和国・ガーナ・インドネシア・モザンビーク・ネパール・ニジェールの8カ国が批准の手続き中であると会議で表明した。

核禁条約は、条約で要件となっている50カ国目の批准/加盟があってから90日後の2021年1月22日に発効した。

さらにスレーター氏は、今回の締約国会議の成果について、「もしこうした公約を実現しようとするならば、もっと真実に向き合わねばなりません。「プーチンのウクライナへの『いわれのない』攻撃について主要メディアが常に一面のみを強調するのは不誠実だと言わざるを得ません。」と解説した。

スレーター氏は、米国の著名な言語学者・哲学者・科学者・批評家であるノーム・チョムスキー氏が「プーチンのウクライナへの犯罪的侵略を『いわれのないウクライナ侵攻』と呼ぶのが通例になってしまっている」と発言していることに言及した。

グーグルでこの表現を検索してみると243万件のヒットがあった。試みに「いわれのないイラク侵攻」を検索いてみたところ、わずか1万1700件で、そのほとんどが(主流メディアではなく)反戦団体のウェブサイトによるものだった。

スレーター氏は、「私たちは歴史の転換点に立っています。ここ米国では、この国が『例外的な』民主主義国家ではないことが、誰の目にも明らかになりつつあります。」と指摘したうえで、「2020年1月6日に起きた米議会に対する襲撃の与えた衝撃と、それに対する理解しがたい反応が米国政治をズタズタに引き裂いたことに加えて、黒人市民に対する継続的な抑圧、再生される人種主義的なステレオタイプ、オバマ政権以来の「ピボット(アジアへの軸足移動)政策」が進行する中でのアジア系市民に対する危害、嫌中国・嫌ロシア的な言説の展開など、私たち自身の歴史を振り返らねばなりません。」と語った。

「それに加えて、植民地主義的な家父長制による虐殺を生き延びた先住民族に対する不当な取り扱い、女性に対する市民権付与の拒絶など、再び家父長制が醜く頭をもたげ、私たちが手にしたと思っていた民主主義の幻想を奪うなか、私たちが勝ったと思っていた戦いを再びやりなおさなければならない事態にあります。」

スレーター氏はまた、「腐敗した企業の略奪者たちに支配された米政府は司法制度やメディアの手によって守られており、政府は、永続的な戦争から抜け出て、核戦争や破滅的な気候変動という激変を回避するための協力的で有意義な行動に向かうビジョンも道を示さない。また、企業欲と誤った優先順位のために、私たちが対処できないように見える疫病を拡大させてしまっています。」と語った。

「ブッシュ政権とクリントン政権でCIAアナリストを務めたレイ・マクガバン氏は怒りに燃えて職を辞し、『正気を求める元諜報部員の会』(VIPS)を設立したが、彼は、軍隊(M)・産業界(I)・議会(C)・諜報部門(I)・メディア(M)・学界(A)・シンクタンク(TT)からなる複合体『MICIMATT』について語っている。米国は、そのMICIMATTとして現れた少数者による専制支配を実現するために、王を追放したようなものだと述べている。」

「この現在進行形の狂気がNATOの無謀な拡大を招いたのです。」とスレーター氏は指摘した。NATOは6月首脳会合開催した、今回初めて参加するオーストラリア・日本・ニュージーランド・韓国といったインド太平洋地域のパートナー国とともに、グローバルな課題について協議した。そして、テロとの闘いの継続、中東・アフリカ北部・サヘル地域からの脅威と挑戦に対処するとの公約がなされた。

他方で、草の根の行動の潮流も強まっている。6月、戦争終結の必要性を訴える平和の波が世界中に拡がった。多くの人々がスペインでのNATO首脳会合に反対するデモに参加し、活動は世界各地でも持たれた。

「核保有国は支持していないものの、核禁条約をますます多くの議員や地方自治体が支持するようになってきており、核保有国に対して、条約に参加して、核兵器廃絶の公約を履行するよう圧力が強まっている。」

米国の核の傘の下にある3つのNATO加盟国、すなわち、ノルウェー・ドイツ・オランダが核禁条約第1回締約国会議にオブザーバー参加した。米国と核共有するNATO諸国のドイツ・トルコ・オランダ・ベルギー・イタリアでも、これらの国々に配備されている核兵器の撤去を求める草の根の行動が起こっている。

これは、ベラルーシに核兵器を配備しようとしているロシアに対するよいメッセージとなるだろう。「平和にチャンスを与えよ。」と、スレーター氏は語った。(07.06.2022) INPS Japan/ IDN-InDepth News