|軍縮|核兵器ゼロを呼びかけるハリウッド映画

AddThis

【ワシントンIPS=プラタップ・チャタジー】

米国映画界(ハリウッド)、IT産業界(シリコンバレー)のリーダーが、中東の王族や米政府の高官と協力して、来週ワシントンで開催される核安全保障サミットに出席する各国の首脳に対して、「国際社会は一刻も早く核兵器をゼロに削減する必要がある」というメッセージを送る予定である。

米国のバラク・オバマ大統領は、来週ワシントンにロシアのドミートリー・メドベージェフ大統領、中国の胡錦涛主席、フランスのニコラ・サルコジ大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相を含む47カ国の首脳を核安全保障サミットに招聘し、核兵器を如何にテロリストの手に渡らないよう安全確保するかについて協議する予定である。今回のサミットには、事実上の核保有国であるインド及びパキスタンも参加する予定であるが、一方でイランと北朝鮮は招待されていない。

サミット開催に先立つ4月8日、核廃絶を訴える世界規模の運動「グローバルゼロ」の代表がワシントンで記者会見を開いた。

そこでの目玉は、新作映画『ゼロへのカウントダウン(Countdown to Zero)』の発表であった。本作品は、英国のルーシー・ウォーカー女史が監督をつとめ、地球環境問題を扱い賞賛された『不都合な真実』や、『イングロリアス・バスターズ』等のクエンティン・タランティーノ作品を手掛けてきたローレンス・ベンダーが制作を担当した。

このドキュメンタリー作品は、オンラインオークションサイト「EBay」の創業者でカナダ出身の億万長者ジェフ・スコール氏の出資を得て制作された。スコール氏はこれまでにもドラマ『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』をはじめ『Food, Inc』といった一連の政治的メッセージを持った映画作品に出資している。

記者会見で映画の広報担当者は、各国元首脳とのインタビュー(ジミー・カーター元米国大統領、ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領、トニー・ブレア元英国首長、パルヴェーズ・ムシャラフ元パキスタン大統領)を収録したこのドキュメンタリー作品について、「人類に残された唯一の選択肢は全ての核ミサイルを廃絶すること。」というメッセージを伝えていると語った。

「核兵器は既に政治的、軍事的有用性を失っています。」とリチャード・バート元米国大使は語った。バート大使は1991年同時、旧ソ連との間に進められた第一次戦略兵器削減交渉(START1)の米国側首席代表を努めた人物である。

記者会見の席上でヨルダンのヌール王女や大西洋軍最高司令官のジョン・シーハン将軍らスピーカーを紹介したバート元大使は、「今日国際社会が直面している危機は核戦争ではなく、核物質の拡散なのです。」と語った。

冷戦の最盛期、米ソ両国は合計で19,000発の戦略核を保有していた。これは地球全体を何百回も破壊するに十分な量であった。その後両国は、戦略核の保有上限を各々2,200発にまで削減したが、オバマ、メドベージェフ米露大統領は7月8日プラハで、新・戦略兵器削減条約(新START)に調印し、米露各々の配備戦略核を向こう7年間でさらに1,550発にまで削減することに合意した。

またオバマ大統領は、4月6日、米国が核兵器を使用する環境を大幅に制限する新「核態勢見直し(NPR)」を発表した。新NPRは、核拡散防止条約(NPT)を順守する国々に対する核兵器の使用禁止の他、核兵器の実験及び新核弾頭の開発停止を謳っている。また、ホワイトハウスに対して、米上院が核実験全面禁止条約(CTBT)を批准・承認するよう働きかけるとともに、同条約の早期発効を目指すよう求めている。

オバマ、メドベージェフ両大統領は、プラハでの新START署名後の共同会見で、イラン・北朝鮮両国がこのままNPTに加盟しなければ報復もあり得るとして、両国への圧力を一層強めた。この際、オバマ大統領が国連による強硬で厳しい追加制裁措置を訴えたのに対して、メドベージェフ大統領は「イランは(米露などによる)これまでの建設的妥協案に反応しておらず、目を閉ざすことはできない。」と述べた。

ただし両大統領が全ての議題に同意したわけではなかった。イランの潜在的な核ミサイルの脅威から欧州を防衛するとして米国が主張してきたミサイル防衛計画については、ロシアは最後まで認めない立場を崩さなかった。

映画制作を担当したベンダー氏とスコール氏は、「核兵器の完全なる廃絶と核物質の徹底管理を求める署名をできるだけ多くの民衆から集めることによって、今日における政治指導者間の交渉の行き詰まりを打破したい。」と語った。

7月9日公開予定の『ゼロへのカウントダウン(Countdown to Zero)』の予告編では、一般市民にまじって世界の指導者が登場し、口々に「(核兵器)ゼロ」を訴える内容となっている。

ベンダー氏は、この映画を北朝鮮やイランでも公開意図があるかとの記者の質問に、「(出来ることなら)是非そうしたい。」と語った。シリアを定期的に訪問し、同じく記者会見に出席したヨルダンのヌール女王は、「私は中東全域の指導者に、この映画を観て核兵器廃絶を訴える宣誓書に署名するよう是非とも働きかけていきたい。」と語った。

一方、反核活動家の間には、「オバマ大統領は、核態勢見直し(NPR)、新START締結、核安全保障サミットという一連の機会を通じて、核問題に関して自らの鳩派イメージを演出している。しかし対イラン・北朝鮮対応を見れば明らかなように、核拡散の脅威に対しては、もっと効果的な対応が出来たのではないか。」といった、オバマ大統領の従来の取組を不十分とする意見もある。

ロス・アラモス研究グループ(LASG:米国最初の核兵器開発地に因んだ名称)のグレッグ・メロ代表は、「新NPRは大変好戦的なものであり、言い換えれば、『鳩の羽毛を纏った鷹』のようなものだ。新NPRは、リベラルな理想と好戦的な米核戦略の現実の間の折り合いをつけようとしたものである。しかし、米国の核政策は今後もほぼ従来通りの路線を踏襲していくだろう。」と語った。

メロ代表は、プラハ合意を振り返って、「オバマ政権下における今日までの備蓄核兵器の廃棄処分の進捗状況は、ジョージ・W・ブッシュ前政権下の実績にさえ及ばない。新NPRは、一方で世界的な核管理体制強化(核不拡散と核保有国の拡大阻止)を推進しつつ、同時に米国による(必要ならば核抑止による脅迫を含む)「軍事力の行使」を担保することを目的としているのです。」と語った。(04.08.2010)

IPS Japan

 

Search