近代的な核安全保障事業を目指して

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【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

米国の核兵器施設群を「現代的で21世紀の核安全保障事業」に相応しいものに転換していくことこそ、バラク・オバマ大統領がロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領との間で4月8日に署名した新戦略兵器削減条約(新START)で明らかにしたオバマ政権の核安全保障戦略の中核をなす部分である。

新核安全保障事業は、米国の納税者に2015会計年度までの間、毎年76億ドルの負担をかけることとなる。また2011会計年度には、それに加えてミサイル防衛計画に99億ドル(2010会計年度より7億ドル増)の予算が投入される見込みである。

21世紀型の核安全保障事業は、米国の核抑止力維持はもとより、核不拡散、核テロ対策、緊急時対応、諜報機関支援といったその他の核安全保障関連の使命を遂行していく上で、極めて重要な位置を占めるものと考えられている。

新START締結に合わせて発表された67ページからなるブリーフィングブック(新STARTと核態勢見直しに関する米国政府の核政策を説明した上院議会へのブリーフィングブック)によると、米国政府はこの点を考慮して、「時代遅れの(核兵器・関連施設の)物理的インフラの近代化に加えて、(核抑止力の)基礎である知的インフラの再活性化に投資する。」予定である。

エネルギー省国家核安全保障局(NNSA)には、幅広い核安全保障任務に加えて、「米国が貯蔵する核兵器を安全かつ安定した信頼性の高いものに維持強化する」任務が法律によって規定されている。

「オバマ大統領がNNSAのために議会に要求した2011会計年度予算は、同政権の核抑止政策及びその裏打ちとしての核安全保障事業に対するコミットメントを反映したものである。その予算要求には2010会計年度予算と比較して10%増の70億ドルを超える核兵器アクティビティ予算(核兵器貯蔵支援、科学・技術・エンジニアリング、インフラストラクチャー改善、安全保障及び核テロリズム対策)が含まれている。」と、ブリーフィングブックは指摘している。

国務省と国防省が共同で作成したこのブリーフィングブックには、以下の予算要求が明記されている。

核兵器貯蔵支援(貯蔵している核兵器をメンテナンス、オーバーホールする事業)への25%割り当て増資(具体的には以下の作業を含む):

-W76-1(老朽化が進んだW76核弾頭〈トライデントⅠ型・Ⅱ型用の多頭型核弾頭、破壊力は100ktでヒロシマ・ナガサキに投下された原爆の5倍以上〉の一部部品を更新し寿命を延長したもの)への変換作業を完遂して核弾頭の寿命を30年間延長する。

-B61核爆弾(0.3-340kt)の耐用年数、安全・操作性、及び新型戦闘機・爆撃機への搭載適応能力を研究する。

-W78核弾頭(335-350kt)を維持していくための将来的なオプションを研究する。

-引き続き全ての核兵器のメンテナンス、監視、検証を行う。

要求予算はまた、コンピュータ・シミュレーションによる核実験・検査能力の維持や、(コンピューターアニメーション等を通じて)将来求められるものを予測する能力開発を段階的に進めていく目的で、科学、技術、エンジニアリングへの予算について、前年比10%以上の増額を求めている。

オバマ政権は、「老朽化したプルトニウム・ウラン保管施設の長期的な建て替え事業を含む物理的インフラ近代化事業や備蓄兵器管理計画(Stockpile Stewardship Management Program)に携わる」科学者、専門技術者、エンジニアへの再投資を行う計画である。

またオバマ政権は、2015会計年度まで毎年76億ドルを投入して備蓄兵器管理への支援を維持・増大させる予定である。

「これらの投資を通じて、科学的な技術革新で幅広く安全保障上のニーズに対応するとともに、環境管理を通じて米国の核抑止維持に専念する高度に訓練された技術専門家チームをNNSAの核安全保障事業に確保することができる。」とブリーフィングブックは記している。

弾道ミサイル

またブリーフィングブックには、「新STARTの条項には、現行及び将来予定されている米国のミサイル防衛計画における実験、開発、(迎撃ミサイル)配備、及び米国の通常兵器による長距離攻撃能力に関して一切制約が加えられていない。」という断固とした主張が明記されている。

「米国は、米国本土、在外駐留米軍、及び同盟国、友好国を弾道ミサイルの脅威から守るためにミサイル防衛の開発・配備を行っている。」とブリーフィングブックは説明した上で、引き続き「新STARTには、米国が引き続きミサイル防衛開発・配備することに関して制限が設けられていない。しかし同条約の前文には、2009年7月にオバマ・メドベージェフ両大統領が共同宣言で合意したとおり、戦略攻撃兵器と戦略防衛兵器との相互関係を認識するとの一文がある。ただし前文に掲げられた目的と原則には法的拘束力がない。」と追加している。

ブリーフィングブックは、後に米露間で深刻な論争となるかもしれない両国間の重要な不一致点に言及している。

第1次STARTの場合と同じく、ロシアはミサイル防衛に関して一方的な声明(ロシアは、米国のミサイル防衛が強化されれば新条約脱退の根拠になる)を発している。「(ロシアの)声明は法的に拘束力がなく、従って米国のミサイル防衛計画に制約を加えるものではない。事実、我々(米国)も、同様に一方的な声明を発し、その中で、この条約には、現行及び将来予定されている米国のミサイル防衛計画に制限を加えるいかなる規定も設けられていないことを明確にした。このような(米露の)一方的な声明は、この条約の関連文書ではあるが、条約の一部ではない。従ってこれらの声明に関しては、上院に(参考情報として)提出されるが、上院のアドバイスや同意を必要とするものではない。」とブリーフィングブックは記している。

新STARTは、弾道ミサイル防衛インターセプターの発射基を大陸間弾道ミサイル(ICBM)および潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の配置のために転換も使用もしてはならず、ICBM発射基およびSLBM発射基をミサイル防衛インターセプターの配置のために転換も使用もしてはならないという規定を定めている。しかしブリーフィングブックは、「この条項は、我が国(米国)のミサイル防衛開発や配備計画に影響を及ぼさない。」としている。

ブリーフィングブックは、米国がアラスカ州のフォートグリーリー基地に14基の弾道ミサイル迎撃ミサイル(GBI)格納庫を建設中であることを報告している。米国がミサイル防衛のための新たな発射施設をフォートグリーリー基地かヴァンデンバーグ空軍基地、或いはその他の場所に建設することに関して、新STARTの制限は受けない。

「新START締結前にICBM発射基から転換されたヴァンデンバーグ空軍基地にある5基のGBIは、締結前に転換されたものを例外とするこの条約の規定に基づいて、条約による制限(変換の禁止)の適用を受けない。」

ブリーフィングブックは、様々な方面からの非難を顧みることなく、米国が今後も戦略ミサイル防衛、戦域ミサイル防衛双方について、「本国及び同盟国の安全保障上の必要性に応じて」質量共に向上を図っていく旨を明記している。オバマ政権の弾道ミサイル防衛計画の維持・強化に向けたアプローチは、2010年2月に発表された「弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)報告書」に詳述されている。また、オバマ政権が2011年会計年度予算要求に際して、ミサイル防衛計画に99億ドル(2010会計年度比7億ドル増)を要求していることにも反映している。

核戦力構造

さらにブリーフィングブックは、新STARTは「米軍が爆撃機、潜水艦、ミサイルを含む戦力を米国の安全保障上の利益に最も沿う形で柔軟に配備することを保証している」と指摘している。

オバマ政権の核戦略報告書「2010核態勢見直し(NRP)」の作成作業は、新START交渉に向けた米国の立場を確定する作業でもあった。新STARTで合意された戦略核の削減レベルは、NPR作成の初期段階であった2009年に実施した(新STARTの下で想定される新たな制限枠における米軍戦力のあり方に関する)分析に基づいて打ち出されたものである。NPRには以下の結論が明記されている:

-(新START条約の合意では)、戦略的運搬手段(ICBM・SLBM・戦略爆撃機)をSTARTⅠから50%減、2002年のモスクワ条約から30%減となるまで減らすことになるが、安定した抑止は維持される。

-米国の地域抑止と再保証(リアシュアランス)のための非核システムによる貢献は、ミサイル防衛に対する制限を避け、従来の役割内で、戦略爆撃機と長距離ミサイルシステムを使用するオプションを保持することによって維持される。

-新START発効から10年間(有効期間)、米国の戦略核戦力の三本柱である、ICBM、SLBM、及び核爆弾が搭載可能な戦略爆撃機は維持される。また海軍では少なくとも短期的には14隻すべてのオハイオ級戦略原子力潜水艦(SSBN)が維持される。また危機に際して安定性を高めるため、ミニットマンⅢ型ICBMの単弾頭化(de-MIRVing)を実施し、ミニットマンⅢ型ICBMは、それぞれ、核弾頭を1個しか搭載しないようにする。

2011会計年度予算要求には、戦略核戦力三本柱を維持するための以下の項目が含まれている。(①ミニットマンⅢ型ICBMの寿命延長作業の継続、②2027年から退役するオハイオ級戦略原子力潜水艦(SSBN)に代わるモデルの技術開発、③向こう5年間に10億ドル以上を投資しB-2ステルス爆撃機の性能向上を支援。)

新STARTは、米国が同条約の定める制限内で自国の戦略攻撃兵器の構成を決定する権利を認めている。

これによって、米国は今後自軍の核戦力構造を(条約発効後の)戦略的な状況に合わせて調整していくことができるようになる。米露両国は、新STARTで合意した制限内容を(両国議会の批准を経て)発効後7年間で削減合意を履行する。(09.04.2010)

IPS Japan/IDN-InDepthNews

 

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