Asia: Dangers of Extended Nuclear Deterrence - JAPANESE

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|アジア|拡大核抑止の危険性

【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】

今年4月には北朝鮮による長距離ロケット発射実験が失敗して間もなく、インドとパキスタンが相次いで核搭載可能な弾道ミサイルの発射実験を行った。 そうした中、シドニーに本拠を置くローウィ国際政策研究所が、核軍縮を妨げているのはアジアの戦略的な不信にあるという報告書を発表した。

ローウィ研究所国際安全保障プログラムのディレクターであり、『疑念を解く(Disarming Doubt):東アジアにおける拡大核抑止の将来』と題した報告書の主編者でもあるローリー・メドカルフ氏は、「アジア地域の核軍縮はこの戦略的な不信の ために停滞している。」と論じている。

とりわけ、北朝鮮が挑発的な核・ミサイル開発を続け、日本と韓国が防衛手段を取らざるを得なくなっている。米国の核兵器によって守られている両国 は、この米国による「拡大核抑止」の傘を弱めたくない。一方中国は、核兵器の拡大あるいは近代化に制限をかけたくない。さらに、中国・インド・パキスタン の不信と軍備競争のトライアングルは、アジアの核軍備管理と軍縮のまた大きな障害となっている。

メドカルフ氏は、通常兵器のコスト急増によって今後の米政権が米国の戦略的な「軸」において核兵器の役割を再びアジアで拡大するようなことがあれば、状況はさらに悪化すると考えている。

アジアは、急速な経済成長と戦略的な不安定さのために、徐々に軍備を増してきた。国際戦略問題研究所(ロンドン)は、2012年3月、アジア諸国の 軍事支出が今年はじめて欧州のそれを上回るだろうとの見通しを示した。中国、日本、インド、韓国、オーストラリアでアジア全体の防衛支出の80%以上を占 め、パキスタン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムは、空軍力・海軍力を増強してきた。

混ぜ物の袋

ロウィ研究所の報告書は、アジアの核の危機を解きほぐすための政策勧告を各国に行っている。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)豪州支部管理委 員会のメンバーであるスー・ウェアハム博士は、「勧告は混ぜ物の入った袋のようなものです。核兵器を使えばどんな場合でも破滅的な結果が待っていることは 認識されているが、核兵器を廃絶するという論理的な目標は明示されていません。」と語った。

またウェアハム博士は、「拡大抑止は自存の危機があるときにのみ使われるべきであるという勧告は、抑止は攻撃を避けるための正当かつ効果的な方法で あるという神話が根強いことを示しています。もし大量破壊兵器を抑止として利用することが正当であるならば、なぜ米国やその傘の下にある国、さらには中国 にとってそれが正当なものであるのに、北朝鮮にはそれが認められないのかを説明する必要があるでしょう。核兵器を持ってよい国と持ってはいけない国がある という書かれざるルール、そして長続きはしないルールには、疑問が呈されていないようです。」と語った。

さらにウェアハム博士は、「勧告はまた、アジアにおける米国の役割は必要かつ安定をもたらすものであって、中国もそれを受け入れるべきであるものと して描かれています。しかし、オーストラリア人の立場から言えば、オーストラリアが米国の軍事政策を強く支持することでアジアに送られる負のシグナルに関 して、私の国ですら懸念が広がっていることを認識しておく必要があります。」と付加えた。

米国のバラク・オバマ大統領は、戦術核と核弾頭の備蓄も含め、米ロ間でのさらなる二国間削減を呼びかけ、中国に対しては、米国との核問題対話を開始するようあらためて求めている。

二つの課題

グリフィス大学グリフィスアジア研究所のアンドリュー・オニール教授は、アジアにおいて軍縮を進める上での課題は二つあるという。オニール教授は、 その第一点として、「欧州との大きな違いであるが、アジアには正式な軍備管理の枠組みが何もなく、核弾頭やミサイル備蓄はいうに及ばず、一般的に言って軍 事力削減のための重要な交渉が行われた歴史がないのです。」と説明した。

さらにオニール教授は、第二点として、「この地域には5つの核兵器国があり(米、中、印、パキスタン、北朝鮮)、冷戦後に3国も増えました。アジア の全ての核兵器国が、未解決の政治的問題/紛争が解決されるまでは、軍備/核兵器削減を開始しないとの姿勢をすでに明らかにしています。とりわけ中国は、 米ロが中国と同レベル(核弾頭150~200発)までそれぞれの備蓄を減らしてこないかぎり、自国の削減には応じないと明言しています。」と語った。

軍縮に向けた真の進展を困難にしているのは、地域各国間の根本的な安全保障のジレンマである。『オーストラリア国際関係学雑誌』の編集長でもあるオ ニール教授は、「米国が、中国との関連で徐々に見え始めている通常軍備上の脆弱性と、日本と韓国で北朝鮮の軍備強化に対して増している不安をカバーするた めに、核の優越性を求めようとする結果、拡大抑止の重要性はおそらく増してくることになるでしょう。」と述べている。

ロウィ研究所の報告は、信用と信頼を構築するプロセスと地域に安全性をもたらす機構を作り出すことは、歴史、領域権問題、ナショナリズム、資源上の制約、変化する戦略バランスなど多くの理由によって、なかなか難しいであろうと見ている。

冷戦の歴史を理解する

シドニー大学のレオニッド・A・ペトロフ講師(韓国研究)は、「朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)の問題にうまく対処するには、冷戦の歴史とそれ が地域に与えた結果を想起し理解する必要があります。対話あるいは協力をしようとするなら、朝鮮間紛争の現実を考慮に入れねばならなりません。朝鮮戦争は まだ終わっておらず、分断された朝鮮の片方に地域の大国が肩入れし、他方にいやがらせをしようとすれば、朝鮮の分断は続くことになるでしょう。」と語っ た。

ペトロフ博士は、北東アジアの紛争を終わらせる第一ステップに関して、「大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が互いを国家承認することが必要です。外 国軍や紛争関係にある同盟に立場を与えない(中立で非核という)特別の地位を朝鮮半島に与えるべきなのです。唯一これのみが、朝鮮における覇権をめぐる 100年にも及ぶ外国間の角逐に終止符を打ち、朝鮮両国の和解を可能とするでしょう。そうでなければ、中国、ロシア、米国、日本が、地域における互いの意 図に関して疑念を持ち続け、それぞれの国家安全保障に対して統一朝鮮が与える脅威が相当なものになりそうだと恐れを持つことになるでしょう。」と語った。

ペトロフ博士は、分断された朝鮮のそれぞれとの外交的関係を強化し経済協力を拡大することで、米国や(豪州などの)その同盟国は、核問題の平和的解決に重要な貢献をなし、地域の永続的な平和と繁栄のための基礎を築くことができるであろうと考えている。

他方、米国でのある研究は、インドとパキスタンが核交戦に及ぶことになると、世界で最大10億人が餓死することになるであろうと警告している。また 同研究は、「限定的」な戦争でも、重大な気候上の変動を引き起こす可能性があると指摘している。米国のトウモロコシ生産が10年にわたって10%、大豆生 産が7%減る可能性がある。また中国のコメ生産は、最初の4年間で21%減ると見られている。

9つの国が2万530発の核弾頭を保有し、そのうち95%は米ロが保有している。「米ロの核兵器だけが全世界への脅威となっているのではありませ ん。はるかに規模が小さい(米露以外の)核戦力でも、人類全体とまでは言わないにしても、文明の存続に関わる脅威となっているのです。」と、核戦争防止国 際医師の会(IPPNW)とその米国支部「社会的責任を求める医師の会」が作成した報告書『10億人を危機にさらす核の飢餓―限定核戦争が農業・食料供 給・人類の栄養に与えるグローバルな影響』の著者であるイラ・ヘルファンド博士がAFP通信の取材に対して述べている。

この研究は、すべての核兵器国が核兵器への依存を低下させ、全ての核兵器を完全に禁止する「核兵器禁止条約(NWC)」の交渉へと可能なかぎり早く移る火急の必要があることを訴えている。(04.28.2012)  IPS Japan/IDN-InDepthNews

 

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