UN Secretary-General António Guterres (centre right) attended a Security Council meeting on nuclear disarmament and non-proliferation on 18 March 2024. UN Photo/Evan Schneider
UN Secretary-General António Guterres (centre right) attended a Security Council meeting on nuclear disarmament and non-proliferation on 18 March 2024. UN Photo/Evan Schneider

国連事務総長が映画『オッペンハイマー』は核の終末の厳しい現実を示したと警告

【国連IDN=タリフ・ディーン】

々の賞を受賞した映画『オッペンハイマー』は、原子爆弾の開発に貢献したとされるロバート・オッペンハイマー博士の生涯を題材にしたもので、核軍縮を求める長年の運動と、世界で最も破壊的な兵器のひとつである核兵器のもたらす死と破壊に再びスポットライトを当てることとなった。

米国が1945年8月に広島・長崎に2発の原爆を投下した際、世界はこれほど甚大な人的災害を経験したことがなかった。両原爆による死者は14万人~22万6000人と推定されている。

「世界芸術科学アカデミー」理事で「グローバル安全保障研究所」所長であるジョナサン・グラノフ氏はこの映画について、今日の数千発の核兵器の持つ破壊力は我々の想像力をはるかに凌駕していると語った。

「この映画は、原爆を作る過程における個々の人間の行為に焦点を当てることで、このような装置を作ったのが人間の手であるならば、それを廃絶するのもまた人間の手によるものだということを私たちに思い起こさせてくれます。この任務を無視するのかそこに向かって努力するのかは、私たちの良心にかかっています。」と語った。

グラノフ氏の発言は、アルベルト・アインシュタイン博士からの強い警告を想起させる。「解き放たれた原子の力は、われわれの思考様式以外のすべてのものを一変させてしまった。こうして私たちは前代未聞の破滅へと突き進んでいる。」

こうしてアインシュタインは1955年、バートランド・ラッセルや他9人の著名な科学者らとともに強力な宣言を発し、人々にこう選択を迫った。「もし人々が皆その気になれば、人類の前には、幸福と知識と知恵の不断の進歩が横たわっている。それなのに争いを忘れることができないという理由で、死を選ぼうとするのか。私は一個の人間として人間に向かって訴える。『人間性』を想い出しなさい。それ以外を忘れなさい。それができれば、新しいパラダイスヘの道が開ける。さもなければ、人類の絶滅しかないだろう。」

現代の偉大な英雄の一人、ジョセフ・ロートブラット博士

映画『オッペンハイマー』は現代のヒーローであるジョセフ・ロートブラット博士を無視しているとグラノフ氏は指摘した。ロートブラット博士もアインシュタイン=ラッセル声明の署名者の一人であり、ナチスの原爆開発は不可能だと悟った時点でマンハッタン計画から降りた人物でもある。

ロートブラット博士は、同計画を主導した軍人グローブズ将軍に対してその事実を告げたが、原爆は単にナチスを抑止するためだけではなく、ソ連の力に対抗する意味合いも込めて開発が進められていることを知った。

「ロートブラット博士は、もし米国が原爆を開発・使用すれば軍拡競争の危険があると見ていました。」とグラノフ氏は語った。ロートブラット博士は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議を創設し、1995年にはノーベル平和賞を受賞した。

オッペンハイマー博士も同様に軍拡競争の危険は感じており、きわめて破壊的な水素爆弾の開発には反対した。代わりに、核兵器の危険性を封じ込めるために、国際レベルでの外交や法、協力を促した。

オッペンハイマー博士はこうした政治的主張によって迫害され、セキュリティクリアランスを剥奪された。「映画は、実際には原則的なことが問題になっているのに、代わりに個人間の反目をゆがんだ形で強調している。」とグラノフ氏は指摘した。

世界芸術科学アカデミー(WAAS)

最終的にオッペンハイマー、ロートブラット、ラッセル博士は1960年、世界芸術科学アカデミー(WAAS)という著名な組織の設立に尽力し、世界から核兵器の脅威をなくし、生命の破壊ではなく改善に科学をより広範に使用しうるような近代的な取り組みを導くことになった。

WAASは今日でもその遺産を保っており、「継続的な進歩」、そして究極的には人間の安全保障という約束を果たすために活動している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は3月18日に安保理で行った演説で映画『オッペンハイマー』に言及した。同作は10日、ハリウッドのアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など7部門で受賞していた。

グテーレス事務総長は「世界終末時計は誰にも聞こえるぐらいの音でカチカチと音を鳴らしています。学界から市民社会に到るまで、この核の狂気を終わらせる呼びかけがなされています。」と語った。

「ローマ教皇は、核兵器の保有は『不道徳』だと述べました。自らの将来について懸念する世界中の若者たちは、変革を要求しています。広島・長崎の被爆者は、権力に対して真実を語り、時代を超えた平和のメッセージをたゆみなく送り続けています。」そしてハリウッドでは「核による終末という厳しい現実を世界の多くの人々にまざまざと見せつけました。」とグテーレス事務総長は指摘した。

ブリティッシュコロンビア大学(バンクーバー)グローバル公共政策グローバル問題大学校「軍縮・グローバル・人間の安全保障」プログラムの責任者を務めるM・V・ラマナ教授は、映画『オッペンハイマー』は「それ以前の兵器よりもはるかに大きな破壊力を持つ原爆の発明と使用によって世界がいかに変えられてしまったかを示している。」と語った。

ヒロシマ・ナガサキ

オッペンハイマー博士が広島・長崎を破壊した原爆の創造を1940年代に監督して以来、核兵器の破壊力は格段に大きくなった。

ラマナ氏は、「核兵器を人間と都市の上に運ぶ方法は、射程・精度・数のいずれの面においても進化してきました。」と指摘したうえで、「資源と権力をめぐる終わりなき競争に駆り立てられて、核兵器保有国は他国の民衆を攻撃する軍事力の一方的な使用に常日頃から関与してききました。」と語った。

「ロシアのウクライナに対する攻撃や、イスラエルのガザに対する全面的な爆撃はその最新の一例に過ぎません。」とラマナ博士は語った。

米国は、朝鮮やベトナム、カンボジア、アフガニスタン、イラクなどのはるか遠方の国々への軍事攻撃で世界を主導し、数えきれないほどの人々を殺害してきたとラマナは指摘する。

「気候変動の危機が厳しさを増し、『血と土地』の論理を振りかざす国家主義的な運動が各国で激しくなる中、軍事的な対立の危険が増しており、核兵器がいつかどこかで使用されてしまうリスクも高まっています。」

ラマナ博士は最後にこう指摘した。「核兵器を廃絶する緊急性が高まっているだけではなく、オッペンハイマー博士や、とりわけアインシュタイン博士のような人々を熱狂させた別のアイディアについて真剣に再考すべき時だと思います。すなわち、(アインシュタインの挑発的なフレーズを使わせてもらうならば)「視野の狭い国家主義という時代遅れの概念」から脱却して『ひとつの世界』へと到るという道のことです。」(3.25.2024) INPS Japan/ IDN-InDepthNews