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|視点|核軍縮プロセスを強化すべき時(ジャルガルサイハン・エンクサイハンNGO「ブルーバナー」代表、元モンゴル国連大使)

【モンゴルIDN=J・エンクサイハン】

地政学的な緊張や紛争が高まり、核兵器使用のリスクが高まっているにもかかわらず、あるいはそれゆえに、核軍縮の現状を見つめ、それを実質的に推進するために何をなすべきかを考えるべき時が来ている。

核兵器削減をめぐる米ロ交渉は行き詰まっている。核軍備削減に関する以前の合意の一部はどちらか一方によって破棄されたり撤回されたりしている。戦略核ミサイルの数を半減させると謳っている新戦略兵器削減条約(新START)は「停止」され、延長されるか新しい条約に置き換えられない限り、2年以内に失効する。

ウクライナ戦争のために、世界全体の核兵器の9割以上を保有する米ロ両国の関係は明確に敵対的なものになり、近い将来に核兵器削減交渉が再開される可能性は低い。核保有5カ国P5:米、露、 英、仏、中)による核兵器削減に向けた多国間協議が始まる見通しもない。

より広く見れば、核不拡散条約(NPT)の条項を実施するための合意も結ばれていない。2015年と2022年のNPT再検討会議は最終文書の合意を見ないままに閉幕し、過去の会議における実質的な合意も完全履行されていない。

相互の結びつきが強まり、グローバル化した世界では、核不拡散はもはやNPT上の核保有国であるP5だけの問題ではなく、世界全体の問題である。実際、すべての国が平和で安定した世界の共同管理者となりつつある。したがって、平和と安定の受益者であるすべての国が、それぞれの比較優位に基づき、平和と安定に貢献する国になるべき時である。

根本的な発想転換が必要

世界は急速に変化している。しかし、P5は自分たちの狭い利害にとらわれ、こうした変化に対応し、核ドクトリンや核政策に必要な調整を加えることに消極的である。ウィリアム・ペリー元米国防長官が2020年に出版した著書『核のボタン』で認めているように、米国の核兵器政策は時代遅れで危険なものとなりつつある。ウィンカーを付けた馬のように、P5は、安全保障ドクトリンと政策に適切な調整を必要とする、技術開発の途方もない変化を見ようとしないし、対応しようともしていない。P5は、政策における核兵器の役割を制限するどころか、通常紛争や非核兵器国(NNWS)も対象にするなど、使用可能リストを増やすことで、核兵器使用の閾値を下げている。

これらすべてが核軍拡競争を引き起こす。最新技術を用いた軍拡競争は、1967年の条約に違反して宇宙空間へ、あるいは、サイバー空間やデジタル領域にまで、予想のつかない壊滅的な帰結を伴って広がっていくかもしれない。したがって、今必要なのは、核抑止政策の根本的な発想転換だ。このままでは、水平的・垂直的核拡散につながり、世界的な生き残りが基本的な問題になっているというのに、核不拡散・軍縮の基礎が掘り崩されることになるだろう。

他国の安全を犠牲にして自国の安全を強化する抑止政策は、必然的に他国の対抗措置を招く。この点において核抑止も例外ではない。この「安全保障のジレンマ」は、世界を核の破局の淵に立たせる悪循環につながる。したがって、核抑止ドクトリンは、非侵略的なドクトリン、すなわち核兵器の威嚇や使用を禁止する共通の安全保障ドクトリンに置き換える必要がある。それは、すべての国家の安全を考慮に入れることで全体的な安全を強化し、紛争解決や交渉、国際法の強化を強調するものだ。

つまりそれは、G20諸国による2023年バリ宣言で表現された核に依存しない安全保障を促進するものだ。この宣言にはP5も署名しており、核兵器の使用あるいはその威嚇は容認できない、としている。

発展を促す

このように悲観的な現状がありながら、他方では前向きで勇気づけられるような呼びかけが非核兵器国からなされている。核兵器を法的に禁止し、核兵器を「絶対悪」とみなし、非正当化し、廃絶するプロセスを開始しようと呼びかけた提案である。「核兵器の人道的影響」に関する3回の国際会議が2013年から14年にかけて開催されたのを受けて、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などの国際NGOの支援と協力を受けた125カ国が、核兵器の廃絶を視野に入れて核兵器を禁止することを呼びかけたのである。

核兵器国やその同盟国による後ろ向きな態度やボイコットの姿勢にも関わらず、国連総会は核兵器禁止に関する会議のホスト役を初めて務め、2017年には核兵器禁止条約を採択した。核兵器活動に関する包括的な禁止条項を備えたこの条約は2021年に発効した。同条約は、核兵器を禁止するだけではなくて、核軍縮の目標にも寄与することで、NPTを補完する。本稿執筆時点で70カ国が条約に批准し、93カ国が署名している。核軍縮におけるこの好ましい動きに対する非核兵器国による支持を強め、それを普遍化して核軍縮への力とせねばならない。

核禁条約「現象」に加えて、困難かつ複雑ではあるが、他にもなされるべき多国間の措置がある。例えば、第4回国連軍縮特別総会を招集して、P5やその同盟国だけではなく、その他4つの核保有国(インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル)に関しても、国連加盟国として参加を促す必要があろう。

この特別総会では、ジュネーブ軍縮会議などの国際軍縮機構の機能不全の理由について討論し、CTBTを発効させ、国際的な市民団体やその連合体の役割や、地雷やクラスター弾、そしていまや核兵器を禁止する国際規範の採択へと導いた同志国家や市民社会のパートナーシップの役割を認識し、支援する必要がある。

核兵器は世界の存続に関わるものであるため、非核兵器国の関心に応え協議を行うことは、核兵器に関連した多国間交渉フォーラムでは当然のことであろう。貿易や開発に関する国際協議が、最貧国や内陸国、島嶼国などの途上国の利益を考慮に入れるべきであるのと同じことだ。核兵器の先行不使用の問題にもすみやかに対処がなされねばならない。

その他の必要措置

米ロ軍縮協議における現在の困難のために地域的な措置を遅らせたり挫折させたりしてはならない。例えば、地域の非核兵器地帯の創設は包摂的なものとする必要がある。そうでなければ、地理的な位置、あるいは妥当な法的あるいは政治的理由によって非核兵器地帯の一部となることができない個別の国が出てきてしまう。現在の非核兵器地帯の定義では、「関連する地域の国々によって合意された協定を基礎とする」場合に、そうした地帯を設立することになっているからだ。

しかし、こうした現在の定義によっては地帯の一部となることのできない小国や中立国が20以上あり、これらが非核世界の盲点やグレーゾーンとなり、アキレス腱となっている。よく知られているように、システムは強力であると同時に、弱点ともなっているのである。個別国家の権利を認識することで、その地域が定義され強化されるだけではなく、これらの領域を核兵器なき世界の重要な構成要素に転じることができるのである。

したがって、国連総会はあらゆる側面に関して非核兵器地帯に関する2回目の包括的な研究を行い、新たな非核兵器地帯の創設につなげ、P5による安全保証の約束を固め、ウクライナにおけるブダペスト覚書の失敗を繰り返さないようにしなくてはならない。

要するに、停滞した核軍縮プロセスを活性化させる方法はたくさんある。(2.28.2024) INPS Japan/ IDN-InDepthNews