US Secretary of State Madeleine Albright met Kim Jong Il in Pyongyang in October 2000. Credit: Dog-Min Chung, AFP
US Secretary of State Madeleine Albright met Kim Jong Il in Pyongyang in October 2000. Credit: Dog-Min Chung, AFP

北朝鮮の核危機を打開する道はある

【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】

昨年11月、事実上戦争状態にある北朝鮮と韓国の危険な軍拡競争は、さらに数段階引き上げられた。韓国は、2018年に北朝鮮との間で国境沿いでのすべての軍事演習を停止することに合意した安全保障協定を破棄すると発表した。

韓国は、北朝鮮が弾道ミサイル技術の使用を禁止する国連安全保障理事会決議に違反して軍事偵察衛星の打ち上げを決定したことに対する報復として、このような措置をとった。今年に入り、双方の言論戦はさらにエスカレートしている。1月23日の報道によれば、北朝鮮は南北統一を象徴する「祖国統一三大憲章記念塔」を取り壊した。

平和構築のイニシアチブは現れては消えている。ジョー・バイデン政権も、この取り組みにおけるパートナーである中国政府も、水面下で足踏みをしているように見える。

大統領選後すぐにバラク・オバマ大統領がドナルド・トランプ氏をホワイトハウスに呼んで何が話されたか、私たちは窺い知ることができない。しかし、知らされたことがひとつだけある。それは、オバマ大統領がトランプ氏に対して、彼が直面する問題の中で北朝鮮問題が最も緊急で最も難しい、と語ったということだ。それは今も変わらない。トランプ大統領は2018年、シンガポールで金正恩委員長と首脳会談を開催したが、実質的な進展はなかった。一方バイデン大統領は、この問題に着手さえしていない。

しかし端的に言えば、米国は好機を逸してしまった。済んでしまったことはしかたがないが、5人の歴代大統領(クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデン)が躊躇に躊躇を重ね、次々と機会を逃すうちに、北朝鮮は、核兵器を持っていない状態から、少なくとも40~50発の核兵器を保有する状態にまでなってきたのである。北朝鮮は現在、米国を攻撃できると言われる大陸間弾道ミサイルを数発保有している。専門家たちは、北朝鮮がこれらのロケットの先端に装着可能な核弾頭を小型化したと考えている。

西側の政治家の多くは異論を唱えるだろうが、ひとつだけ確かなことがある。つまり、米国が初期の合意を遵守していれば、北朝鮮が核保有国になることはなかったということだ。

ビル・クリントン政権は、北朝鮮がそれまで進めていた核開発プログラムを凍結して、より核拡散の恐れが少ない軽水炉に置き換え、段階的に米国と北朝鮮の関係を正常化していく「米朝枠組み合意」の下で交渉した。これに基づき、米国は北朝鮮に、電気しか製造できない軽水炉の建設を開始した。しばらくの間、北朝鮮はアジアで米国が援助を行う主要な相手だった。クリントン大統領が平壌に遣わせたオルブライト国務長官は現地で歓待を受けた。北朝鮮は態度を軟化させた。

ビル・クリントン大統領は退任直前、北朝鮮との協議がまとまる寸前だと考えていた。しかし、大統領任期の最終盤で、パレスチナに和平をもたらすと思われた重要なアラブ・イスラエル協議に力を入れざるを得なかった。(言うまでもなく、それは実現しなかった。)同時に、議会共和党は、北朝鮮との間ですでになされた合意を空文化させる努力に余念がなかった。

その後政権を引き継いだジョージ・W・ブッシュ大統領は、国務長官であり元統合参謀本部議長のコリン・パウエル氏や、ほとんどの政治学者・国際関係学者等の意見を無視して、全てをひっくりかえした(これはイラク戦争に踏み切るよりも悪い過ちだった)。北朝鮮はこうしてそれ以降、核兵器開発の作業を完遂することを決意したのだった。

米朝間の対立は不安定なものだ。米軍は、もし米軍が北朝鮮を攻撃すると、北朝鮮はその武器庫にある通常兵器のロケット弾を韓国に向けて発射し、飛行時間にしてわずか2、3分の距離にあるソウルを破壊することを知っている。

一方、北朝鮮が核弾頭を搭載したロケットを1発でも米国に向けて発射すれば、米世論の大多数が大規模な報復核攻撃を支持するであろうことを、北朝鮮軍は知っている。

ブッシュ大統領は、元統合参謀本部議長のコリン・パウエル国務長官や、政治学や国際関係の専門家らが、イラク戦争を開始するよりもさらに悪い政治判断だとして反対を表明したにもかかわらず、クリントン前政権の北朝鮮との対話路線を一蹴した。北朝鮮はそのとき初めて、核爆弾の製造作業を完了させることを決断した。

クリントン大統領の「米朝枠組み合意」の時代に時計を巻き戻すことはできないが、新たな枠組み合意をゆっくりとではあるが創り出すことはできる。しかしまずは、最終的にソ連を弱体化へと導いたのと同様の手法を用いて北朝鮮との関係を「改善する」ことが必要だ。それには、米国のサッカーチームやニューヨーク市バレエ団の定期訪問や、数学や政治学・人権を教えるハーバード大学のサテライトキャンパスの建設(中国の大学でやってきたこと)といったような、文化・教育・スポーツ面での交流が有効だろう。

そのうえで米国は、北朝鮮が本当に望んでいる2つのことに同意しなければならない。つまり一つ目は、1953年に休戦協定で終了したに過ぎない朝鮮戦争を正式に終結させるための平和条約に関する協議を開始すること。もう一つは、朝鮮半島周辺における米軍の軍事演習を制限することである。

罵り合いはもう必要ない。必要なのは、平和的解決の模索に乗り出すことだ。前向きであることは容易ではないが、結局のところ、前進と後退を繰り返した紆余曲折の年月を経て、重要なのは「情報に基づいた楽観主義(Informed Optimism)」なのだ。意志あるところに必ず道は開ける。そして今、多くの失敗を経て、私たちは進むべき道を知っている。残念ながら、現実的なことを言えば、共和党が米国の上下両院で少数派になるまでは実現しないだろう。そうでなければ、共和党は大統領主導のいかなる合意も妨害するだろう。(1.26.2024) INPS Japan/ IDN-InDepthNews