なぜ「2011年度平和提案」が重要なのか

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【GCCコラム=フレデリック・マティス】

 

世界が注目すべき「2011年度平和提案(第36回「SGIの日」記念提言)」の中で、池田大作創価学会インタナショナル(SGI)会長は、比較的成功裏に終わった2010年のNPT運用検討会議に改めて焦点を当てている。つまり同会議が、核兵器の脅威に対する唯一の保障は、その「廃絶」以外にはないと公式に再確認した点に注目し、「核兵器を包括的に禁止する『核兵器禁止条約(NWC)』の早期締結がきわめて重要である。」と記している。

 

この目標の基盤にあるものは、「人類は暴力と戦争を捨て去り、『生命尊厳の世紀』を築き上げていかなければならない。そしてそうした新たな潮流は、目覚めた民衆の熱意と行動によって生み出される」という池田会長の信念である。また池田会長は、核兵器に関する国家間の交渉について、「軍備管理的なものに終わらせるのではなく、核兵器を廃絶するという明確なビジョンを持たねばならない」と記している。この指摘のとおり、核兵器を保有する国がある限り、同じように核兵器を保有したいという国が必ずでてくるのである。

 

利益

 

核廃絶がすべての人々と国家に与える主要な利益は、次の3点に要約できる。すなわち、第一に、核戦争あるいは核攻撃を回避できること、第二に、「誤って」核ミサイルが発射される可能性を回避できること、第三に、テロリストが(盗難などの手段で)核兵器を取得する脅威を回避できることである。

 

核兵器なき世界を達成するには、[核兵器禁止条約という法的形式における]核兵器禁止に、すべての国、とりわけ、核兵器保有国が先行して、条約発効以前の段階で加盟することが重要である(核兵器保有国は、兵器の取得順に、米国、ロシア、英国、フランス、中国、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮である)。

 

どの核兵器保有国も、核兵器保有の「公的理由」を掲げている。しかし、これらは全て再考に付すべき時に来ている。なぜなら、拡大主義的な共産主義はいまや衰退、孤立し、消滅しかかっており、旧ソ連もこの20年間で15の国に分割され、ワルシャワ条約機構は、もやは存在していないからである(他方で北大西洋条約機構〈NATO〉は存在する)。

 

さらに、国家が核兵器を保有する動機、或いは少なくとも動機の一部としてよく言われる「核保有国になることによって国家が得られる『ステータス』」についても、発効した核兵器禁止条約のもとでは、どの国家も核兵器を保有していないことから、そうした動機やその根拠そのものが、消え去ることになるだろう。加えて、今日の核兵器保有国は、核廃絶運動の広がりを意識しつつも、核兵器禁止条約を遵守することがもつ、地政学的、法的、心理的、道徳的な意義が前例なきものであることを、未だによく考えてみたことがないのではないだろうか。すなわち、発効以前にすべての国家が加盟する核兵器禁止条約においては、全ての国が核兵器の保有を禁止されるため、結果的に全ての国家が平等・公正に取り扱われると同時に、全ての人々と国家が核兵器の脅威から解放されるからである。

 

北朝鮮

 

核兵器に関連して「紛争が懸念される国」に、北朝鮮がある。池田会長は、「(朝鮮半島を含む北東アジアの)永続的な平和と安定を目指すためには、北朝鮮の核兵器問題を早期に解決することが欠かせません」と記している。現在、北朝鮮と米国およびその他の国々との間には「核の相互不信」がある。しかしそれは、北朝鮮が、世界的な核兵器禁止に参加しない、それに従わない、ということを必ずしも意味しない。

 

(米国は、5~10発の核兵器を現在保有していると推測される北朝鮮と比較して、500~1000倍の核兵器を保有している。そして米国は北朝鮮に対して世界的な核兵器禁止の見通しについて協議を持ちかけたことがない。)

 

もし、先に推奨し記述したように、核兵器禁止条約の発効条項が、「すべての国家」を加盟国とするように定めているとしたら、すべての国家にとって、条約に参加しようとの誘因になるであろう。なぜなら、法定された(そしてすべての国家が参加した)核兵器禁止の下では、すべての人々は、核戦争あるいは核攻撃の危険や「誤った」核ミサイル攻撃、テロリストが国家から核兵器を奪う可能性から解放されることになるからである。

 

イスラエル

 

核廃絶を検討するに際して、イスラエルをはずして考える者はいないであろう。(少なくとも100発の核兵器を保有していると推定される)イスラエルも、他のすべての国家と同じように、条約発効前に核兵器禁止条約に加わらなくてはならない。もしそのように法定された、すべての国家が参加した核兵器禁止条約が達成されたと想定すると、イスラエルは、中東の「敵国」が核兵器を開発しているという恐怖の軛から解放されることになるだろう。なぜなら、すべての条約加盟国にはイスラエルの他にシリア、イランも含まれており、すべての国家を対象に査察が適用されるため、地政学、その他の観点からも前例なき規模の強制力をものになるからである。

 

また、同条約が発効した世界においては、イスラエルは、テロリストが盗難などの手段を通じて国家から核兵器を取得するという脅威からも解放されることになるだろう。また、兵器級高濃縮ウランの希釈が条約に規定されたとすれば、テロリストにとって、高濃縮ウランを使用して核兵器を製造するという選択肢も断ち切られることとなる。

 

(高濃縮ウランの他に核兵器の材料となる核分裂性物質はプルトニウムである。しかし、プルトニウムは、中性子を放出するために、比較的単純な「砲身型」核兵器には使用できない。砲身型は、テロリストが、高濃縮ウランを用い、少人数のならず者科学者の手を借りて製造する可能性が高いタイプの核兵器である。)

 

核兵器禁止条約にイスラエルを加わらせるもうひとつの誘因は、条約署名の前に、既存の化学兵器禁止条約と生物兵器禁止条約に加盟させるよう全ての国家に求めることである。もしそれが義務づけられるのであれば、国家が化学・生物兵器を貯蔵したり、イスラエル(あるいは他の国家)に対して化学・生物兵器によって攻撃が加えられる可能性は、実質的になくなるだろう。なぜなら、世界的な化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約(あるいは、世界の全国家が参加した核兵器禁止条約)の違反国に対して、世界の圧倒的多数の反対が即座に組織されるであろうことが、容易に予測できるからである。

 

市民社会と核兵器禁止条約

 

SGIの池田会長は、「平和提案」の中でこう述べている。「もし市民社会が圧倒的な存在感をもって『国際世論による地殻変動』を起こしていけば、もはやどの政府もそれを無視できなくなるはずです。そのためにも明確なゴールを掲げて、それを支持する圧倒的な民衆の意思を、だれの目にも見える具体的な法へと『結晶化』させるプロセスを始動する必要があります。」

 

実際の「法的な形」というのが核兵器禁止条約であるのは異論のないところである。そしてモデル核兵器条約という形で、この目標に向けた大きな前進が、すでになされている。

 

また池田会長は、時折次のように雄弁に語っている。「大切なのは、同じ地球に生きる人間としての良心に照らして、どの国の民衆であろうと核兵器の犠牲となる事態を起こしてはならないとの意識に目覚めることです。そして、一人一人がその信念に基づいて、『ゆえに私は、核兵器の脅威の下でこのまま生き続けるのではなく、核兵器のない世界を自らの手で建設することを選択する』との声をあげ、それを積み重ねていく―その『民衆による選択の重み』を、核兵器禁止条約の依って立つ法源としていく運動を目指すべきではないでしょうか。」

 

しかし一方で、「世界は危険な場所であり、他の国家など信頼できない。核兵器禁止条約に違反する国々もでてくるかもしれないではないか」という反論もあるかもしれない。しかし、核兵器禁止条約に、今日の化学兵器禁止条約にある「抜き打ち査察」も含めて、世界的な査察(検証)の仕組みが組み込まれるとしても、これは単純に信頼だけの問題ではないのである。すなわち(核兵器禁止条約が発効すれば)各国家は、自国あるいは他国が核兵器禁止条約に違反すれば、例外なくその国家は、他のすべての国家の(少なくとも)政治的敵国になるという破滅的な結果を覚悟しなければならないからである。

 

従って鍵となるのは、核兵器禁止条約が発効する前に、全ての国家が加盟することである。そうすれば、核兵器禁止条約は真に世界的なものになりえるのである。そして、この「全国家加盟要件」は、核兵器禁止条約に対して、地政学的その他の前例なき強制力を付与することになることから、「全ての国家」が参加する誘因となるであろう。加えて、条約の下での全国家は、核兵器禁止条約を遵守することによってのみ、すべての人々と国家が、核戦争あるいは核攻撃、「誤った」核ミサイル発射、テロリストによる核兵器取得に対する現在の脆弱な立場から解放されることになると認識することになるであろう。(そして、もし国家が核兵器禁止条約調印前に化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約に加わらねばならないとしたら、核兵器禁止条約にすべての国家が加盟してそれが発効する以前に、化学・生物兵器は世界的に禁止されている、ということになる。)

 

池田会長は、「平和提案」の中で、人権文化の建設に関する重要な部分に進む前に、核兵器に関してこう締めくくっている。「もはや機は熟しており、市民社会をあげて行動すべき時を迎えています。SGIとして、核兵器禁止条約の制定を軌道に乗せる運動を『核兵器廃絶への民衆行動の10年』の中核に据え、全力で取り組みたい…。」

 

そして池田会長は、核廃絶に向けて若者が果たしている重要な役割を称賛するとともに、2015年のNPT運用検討会議を(可能ならば広島か長崎で)核廃絶サミットの意義を込めて開催することを訴えている。このように、核兵器問題に対する池田氏の関心は、現在直面している核兵器の脅威から解放されて生きる権利と、実にそうした生来の希望を持つ全ての人間に対する彼の関心そのものなのである。(GCC/IPS Japan 03.12.2011)

 

※フレデリック・マティス氏は、在野の研究者であり、『大量破壊兵器の禁止』の著者。

 

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