Photo: Vanessa Lanteigne, Program Officer at Parliamentarians for Nuclear Non-Proliferation and Disarmament (PNND), presenting proposals on Gender Inclusivity at the NPT Working Group at the UN on 23 July.
Photo: Vanessa Lanteigne, Program Officer at Parliamentarians for Nuclear Non-Proliferation and Disarmament (PNND), presenting proposals on Gender Inclusivity at the NPT Working Group at the UN on 23 July.

核軍縮運動はジェンダー平等問題を避けている

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連は長らく、政治・社会・経済におけるジェンダー平等を強力に推進してきた。その一つの表れが、貧困や飢餓の根絶、質の良い教育、人権、気候変動などに関する17項目の持続可能な開発目標である。

しかし、圧倒的に男性主導で進められてきた核軍縮運動における根深いジェンダー不平等について、国連は沈黙を保ってきた。

ロータリークラブの平和研究員で核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の代表であるバネッサ・ランテーニュ氏は、「ジェンダー包摂とNPT再検討プロセス強化へのアプローチ」と題された7月23日の発表で、2019年においてNPTへの代表団のトップの76%が男性であり、2000年以来、NPT再検討会議準備委員会のすべての議長が男性、NPT再検討会議本体では女性議長がわずか1人いただけだったと指摘した。

彼女は、列国議会同盟が各国議会に課しているのと同じ条件で、男女バランスが悪いNPT代表団に対して制裁を課す案を提案した。

ランテーニュ氏はまた、ジェンダー平等が完全に実現するには、安全保障の枠組みの中で、「男らしさ」や「女らしさ」に関連する問題、見解、アプローチを完全に表現することが必要だと指摘した。

ランテーニュ氏は、アイルランドが提出した作業文書「核不拡散条約におけるジェンダー」の中で、「NPT再検討プロセスは、優先される問題という点で、核兵器に対処するための一次元的な安全保障アプローチを採用してきた」という評価を引用し、ジェンダーや平和、外交、紛争解決、国際法を織り込んだ共通の人間の安全保障という広い枠組みで核不拡散やリスク低減、軍縮を追求する補助機関をNPT内に立ち上げるよう提案した。

西部諸州法律財団のジャクリーン・カバッソ事務局長は、「女性や性的少数者はNPTプロセスにおいてほとんど代表されていません。」とIDNの取材に対して語った。

「そして核兵器の将来のような重大な決定を下す際には、あらゆる性別の人々が対等なパートナーであるべきというのは、常識の問題なのです。」とカバッソ事務局長は語った。

核兵器廃絶・アボリション2000グローバルネットワークの共同創設者でもあるカバッソ氏は、「列国議会同盟と同様に、NPTの各国代表団にジェンダーバランスに関する目標を設定して、必要であれば投票制裁によってそれを強制することで、代表団の母国におけるジェンダー平等の改善につながる可能性もあります。」と語った。

「しかし、世界を支配する道具としての核の恫喝という一見したところ揺るぎなき役割に挑戦する方法を考えるにあたって、すべての性別の人々が平等に議論に参加することだけでは、問題が解決できるわけではありません。」と、カバッソ氏は指摘した。

「必要なのは、普遍的な『人間の安全保障』の必要性がますます高まっているにもかかわらず、『国家安全保障』という建前を優先させ続ける組織の考え方、価値観、慣行を根本的に変革することです。」とカバッソ事務局長は語った。

ワシントンウィットマン大学でティモシー・A・ポール判事夫妻記念政治学教授を務めるシャンパ・ビスワス氏は、「2023年にもなっていまだにジェンダー平等を論じているとは驚きだ!」と語った。

「クリストファー・ノーラン監督の最近の映画『オッペンハイマー』の特徴を一つ挙げるとすれば、核の分野は初めから男性中心であったということだ。」とビスワス氏は指摘した。

しかし、ポストコロニアル理論と核政策を専門とする国際関係論者であるビスワス氏は、「多くの分野でジェンダー包摂に向けた前進が見られますが、核政策立案の分野ではまだ大きく遅れをとっています。」と指摘したうえで、「核軍縮に真剣に取り組むのであれば、核兵器の危険性に様々な視点から注意を喚起し、その男性主義的で軍事主義的な意味合いから離れたところで安全保障の意味を再定義するための声を包摂すべく、実質的に軍縮分野を多様化していくことが必須です。」と語った。

ビスワス氏はまた、「女性の声はこの取り組みにおいて極めて重要な意味を持ちます。私は代表団の男女バランスを変える目標を立てるとの提案に賛成ですが、罰則よりもインセンティブによってできないものかと思います。」と語った。

7月23日に行われたNPT再検討プロセスのさらなる強化に関するプレゼンテーションの中で、ランテーニュ氏は、「ジェンダーの包摂とアプローチを高めることによって、NPT再検討プロセスはより豊かになり、強化され、より効果的になるだろう。」と語った。

ジェンダーの包摂とアプローチとは第一に、様々な性(男性、女性、不確定な性)を持つ人が、安全保障部門における意思決定プロセスと指導的なポジションに平等に配置されていることを意味する。

そして第二に、より多様で包摂的かつ全体的な安全保障の枠組みを利用するために、平和と安全保障に対する多様なジェンダーの視点・問題・アプローチを有意義に取り入れることである。これら2つの原則を統合することは、女性の平等な参加と全面的な関与の重要性と、紛争予防と解決に関する意思決定における(女性の)役割を増やす必要性を強調した、「女性・平和・安全に関する国連安保理決議1325」を支持することになる。

他方、持続可能な開発目標の第5目標は、ジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメントに焦点を当てている。

加盟国がジェンダー平等や包摂に関する認識を高め、行動する意思を持つだけではなく、自らそれを積極的に参照し、促進している兆しがある。

「2019年のNPT再検討会議準備委員会会合では、60カ国以上を代表した20本以上の声明が、NPTへのジェンダー視点導入の重要性について触れていました。その内、核問題とジェンダーについて直接触れた作業文書が3本、そのつながりに言及したものが8本ありました。」と、ランテーニュ氏は指摘した。

参加への平等なアクセスを支援するための政策を見直すことは、創造的な解決策や持続可能な発展をもたらすより多様な専門知識を含むことによる組織の効率と革新的能力の向上につながることから重要である。

しかし、ジェンダーを包摂するアプローチは、ジェンダーを多様化する分析によっても補完されるべきである。ジェンダーの平等のためには、安全保障の枠組みの中で、「男らしさ」や「女らしさ」に関連する問題や見解、アプローチが完全に代表されることが必要である。

「タフであること」「真剣さ」「リスクを取る姿勢」「軍事訓練的な発想」など、男性と一般的に結び付けられるような性質や専門能力、経験が高く評価されていると、核軍縮交渉に携わる人々が捉えていることが、これまでの研究で明らかにされている。

「そうした交渉は、柔軟さや妥協、多面的な問題解決、共感、(問題だけではなく関わっている人々に焦点をあてる)人間同士の相互作用といった『女性的な』アプローチを取り入れて『外交の引き出し』を増やすことで、より強化され、成功の可能性が増すはずです。」と、ランテーニュ氏は主張した。

NPT再検討プロセスにとって教訓となりうるジェンダー包摂的アプローチの例として、列国議会同盟ジェンダーパートナーシップグループが挙げられる。同グループは、ジェンダーに多様な観点が取り入れられ、女性を含めることが単に数の面での代表性の向上にとどまらず、女性と関連することが多い安全保障のアプローチを総合的に代表することをめざして、設立されたものだ。

ジェンダーを包摂する原則やアプローチの例は、カナダやドイツ、アイルランド、スウェーデンなどが採用している男女平等的な外交政策にも見られる。

しかしこれらの政治的な前進は、スウェーデンの例にみられるように後継政府によって後退させられる危険性をはらんでいる。同国では、国際機関や手続きにおけるジェンダーの重要性を制度化する必要性を歴代の政権が重視してきた。

「我々は、ジェンダーや平和、外交、紛争解決、国際法を織り込んだ共通の人間の安全保障という広い枠組みで核不拡散やリスク低減、軍縮を追求する補助機関をNPT内に立ち上げるよう提案します。この共通かつ人間の安全保障の広範な枠組みは、包摂的な政策が完全かつ実質的に履行され、象徴的な形骸化が回避されるようにするために、紛争解決と安全保障の分野に多様なジェンダーの視点を取り込んだ参加の機会を増やすうえで、意義を持つでしょう。」と、ランテーニュ氏は語った。(08.06.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews