|軍縮|オバマ大統領、新START批准を最優先課題に

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【ワシントンIPS=ジム・ローブ】


先の中間選挙で大勝した共和党優勢の議会がスタートする来期までの期限が差し迫る中、バラク・オバマ大統領は、上院における新戦略兵器削減条約(新START)の批准承認を、議会対策の最優先課題に据えたようだ。


オバマ大統領は、上院での新START批准承認を獲得するために、核兵器近代化予算の追加を求める共和党の要求に応じる用意があるとしたのに続いて、さらに「ブッシュ大型減税」措置の延長に高所得者世帯も含めるべきとの共和党の要求も受け入れる意向を示唆している。

一方、オバマ大統領は、過去5代の共和党政権下で国務長官を務めた5人を含む共和党外交族の重鎮からかなりの支持を得ている。

ヘンリー・キッシンジャー氏、ジョージ・シュルツ氏、ジェームズ・ベーカー氏、ローレンス・イーグルバーガー氏、コリン・パウエル氏の歴代国務長官は、12月2日付のワシントンポストに寄稿した連名記事の中で、新STARTは「明らかに米国の国益に資するもの」であり、批准すべきであると結論付けている。

ニクソン、フォード、レーガン、ジョージH.W.ブッシュ、ジョージW.ブッシュの歴代政権下で国務長官を務めたこれら5名の著者は、「当時各々の上司である歴代大統領は、公正で検証可能な仕組みのもとで核兵器の数を削減することが、核戦争勃発のリスクを減らし、米国のソ連及び後のロシア連邦との2国間関係を安定化させることを理解していた。」と記している。


しかし新STARTが上院で批准承認されるかどうかの見通しは依然として不透明である。来月の新会期後に大幅に勢力が拡大する強硬路線のネオコン(新保守主義者)や共和党右派の議員は、米露両国が配備済長距離核弾頭数の上限を2200から1550に各々削減する条項等を合意した新STARTの承認を、依然として断固反対する立場をとっている。


STARTが批准されれば米露両国による核ミサイルの相互検証作業を再開できる。現在は1991年にブッシュ(父)大統領が締結し、まもなく批准された従来のSTARTが昨年12月に期限切れとなり、相互の検証作業が停止されたままの状態となっている。


STARTの反対者は、同条約は、検証システムが不十分(新START条約では、移動式大陸間弾道ミサイル〈ICBM〉の生産工場における常駐査察が廃止されるとともに、移動式ICBMを他のICBMと区別して扱わない方式を採用。また、従来のSTARTと比較して査察対象と回数を減らすことで検証の効率化を図り、負担軽減を図っている。反対勢力はロシアが移動式ICBMへの依存度を高めている中、移動式ICBMに対する監視を緩めるのは妥当ではないと主張している:IPSJ)であり、米国が将来イラン、北朝鮮、そしてロシアを含むその他の敵国からの攻撃から国土を守るミサイル防衛システムの開発・配備能力を制限しかねないと主張している。


保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のエド・ミース氏とネオコン系シンクタンク「American Enterprise Institute (AEI)」のリチャード・パール氏は、12月2日付のウォールストリートジャーナル紙に寄稿した共同署名記事の中で、「レーガン大統領は、米国は、軍縮交渉に関しては強気に出て優勢な立場で交渉すべきということを理解していた。」と記している。


ミース氏は、レーガン政権下で司法長官及び大統領の政治顧問として仕えた人物である。また、パール氏は同政権で国防次官補として軍縮交渉の任にあたった人物である。


また両著者は、「これだけロシアに譲歩して得た内容が欠陥だらけの合意を、オバマ大統領や共和党の著名な政治家が、故レーガン大統領の記憶に言及して批准承認を訴えたのは全く恥知らずで不適切な行為と言わざるを得ない。」と記している。


米国憲法では、条約批准には定員100人の上院議員の3分の2にあたる67人の賛成が必要である。今期中、民主党は58議席を確保しているため、オバマ大統領は9人の共和党上院議員の支持を獲得できれば批准承認に持ち込むことが可能である。


しかし今までのところ、6名の共和党上院議員が、環境が整えば条約批准承認案を支持する用意があると示唆している他は、共和党の重鎮(インディアナ州選出)で上院外交委員会で重要なポジションにあるリチャード・ルーガー上院議員のみが、条約支持を強く表明しているにすぎない。


一方、新会期が始まれば民主党は議席を多数失い、オバマ大統領は新START条約の批准を確保するためには、少なくともさらに6名の共和党議員を説得しなければならなくなる。専門家の大半が同条約の批准はなお可能との見方を示しているが、そのためには、オバマ大統領はかなりの政治的な譲歩を視野に入れた説得工作をおこなわなければならないだろう。


STARTの批准はオバマ政権の核戦略を進める上で重要な試金石であることから、オバマ大統領は条約への支持を獲得するため既に多くの努力を傾注してきた。


オバマ政権は、新STARTに関する共和党側の首席交渉人であるジョン・カイル上院議員(アリゾナ州選出)との先月の交渉において、同上院議員をはじめとした条約懐疑派の要求を受入れ、核兵器近代化5か年計画予算800億ドルに41億ドルを追加することに同意した。


オバマ政権は、カイル上院議員が先月他の共和党議員と共に、「依然として核兵器近代化計画とミサイル防衛計画の在り方に懸念を持っており、このままでは会期末までに新START批准承認案を審議する時間が残されていない」と発表したことに衝撃を受けていた。


一方、米国内3か所の国立原子力研究所の所長は、12月1日に公表されたルーガー上院議員及びジョン・ケリー上院外交委員会委員長に宛てた書簡の中で、現在の核兵器近代化計画は、「新STARTで合意された1550基を配備済戦略核弾頭の上限とする米国の核抑止体制の安全性、信頼性、及び効率性を維持する上で、あらゆるリスクを想定しても十分信頼に足る内容」であり、したがって「大変満足している」と記している。


START支持派は、この科学者達の保証をもってすれば、条約批准案への十分な支持が獲得できると主張しているが、オバマ大統領は、批准支持を確実にするためには、さらなる譲歩も辞さない勢いである。


事実、富裕層への「ブッシュ大型減税」適用延長を現在最優先課題に位置付けている共和党は、この問題でオバマ大統領の譲歩を引き出せない限り、新STARTの批准審議に入らない構えを見せている。ブッシュ大型減税は、9・11の同時多発テロの後でアメリカ経済が低迷したことを受けてブッシュ大統領が期限付きで導入した臨時減税案で、今月末適用期限を迎える。


2008年の大統領選で年間所得が25万ドル以下の世帯に対して増税しないと公約したオバマ大統領は、同所得基準を上回る富裕層への減税措置を延長しないことで、向こう数年間で数兆ドル相当の財政赤字削減が見込みると期待していた。


しかし上院の新START批准を優先して、富裕層への減税措置延長で妥協を受入れる姿勢を見せるオバマ大統領に対して、大統領支持者の間に落胆が広がっている。


ワシントンポスト紙のコラムニストE.J.ディオン氏は、12月2日付のコラムに「上院は年末に会期が終わる前にロシアと調印した新STARTを批准すべきです。しかし極めて重要な外交イニチアチブを審議通過させるために、大統領がこともあろうに減税問題で折り合いをつけなければならないという今日の状況は、この国のありかたとしていかがなものだろうか?」と記している。


オバマ大統領が大型減税の延長問題で柔軟な対応を示唆したことから、カイル上院議員を含む共和党議員の間で今期の議会が休会になる前に、新START批准審議を行う時間がまだあると示唆する議員が増えている。


事実、(新STARTの批准を確保するために)十分な人数の共和党議員が、富裕層への大型減税延期の問題が解決されれば、早ければ来週後半にも新START批准問題が上院で取り上げられるだろうとする議会関係者の見通しを支持している。


ルーガー上院議員は12月1日、「これは2段階のプロセスだ。すなわち、まず大型減税の延期問題に取り組んでから、新START批准問題に取り組むということだ。」と語った。 (IPS/02.12.2010)

 

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