|軍縮|核廃絶支持を躊躇する中・東欧諸国(評論家トマス・カラセック氏インタビュー)

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【プラハIPS=パヴォル・ストラカンスキー】


チェコ共和国プラハ―今から一年以上前、米国のバラク・オバマ大統領は東欧のこの街にに来訪し「核なき世界」についてのビジョンを発表した。その一年後、オバマ大統領は再びこの地で、ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ大統領と共に米露両国の備蓄核兵器を削減する条約に調印した。

多くの評論家は、プラハが、世界核戦争勃発が間近に考えられていた冷戦の最盛期に核兵器が配備された地域を代表する首都の一つであることから、核兵器削減条約の舞台として同地が選ばれたことを「象徴的」と捉えた。

しかし一方で、今日の中・東欧諸国の首脳たちは、核兵器廃絶を目指すグローバル・ゼロの完全支持については及び腰であり、地域の国民も核廃絶を巡る議論については一般的に無関心であることから、プラハという地の選択には違和感が伴うのも事実である。チェコの著名な国際関係評論家であるトマス・カラセック氏は今回IPSの取材に応じ、核廃絶の議論がなぜ同地において政治的な支援を獲得できそうにないのかについて説明した。

Q:米国のバラク・オバマ大統領は「核なき世界」を目指したいと述べ、潘基文国連事務総長は世界の指導者達も同じ思いだと述べています。中・東欧の指導者も同じ思いだと思いますか?彼らは核廃絶を全面的に支持するでしょうか?

A:私はそうは思いません。核兵器の利点を公に擁護することは困難ですが、核兵器は、北大西洋条約機構(NATO)の防衛・抑止戦略に欠くことが出来ない地位を占めているのです。大量破壊兵器によるテロ攻撃の可能性や、対ロシア安全保障を考えれば、中・東欧の外交防衛政策に携わる高官の多くが今でも(必ずしも即応戦力の対象ではないとしても)核抑止をNATO政策の必要な構成要素と考えていると思います。
Q
:中欧諸国の指導者の中には、核廃絶は米国による欧州からの戦術核の撤去へとつながり、強大なロシア軍に隣接するこの地域の安全保障を不安定化しかねないとして、核廃絶を望まない者もいるといわれています。この地域の指導者が核廃絶を支持しない何か実質的な安全保障上の理由はあるのでしょうか?

A:現実にロシアとNATOが軍事的に衝突するというシナリオはほぼ現実的ではないという前提を強調した上で、純粋に軍事的な観点から言えば、NATOはロシアの通常戦力による攻撃に対して核兵器を使用しなくても防衛することができると言ってもいいと思います。しかし現実にはロシアが核兵器を依然として保有している状況において、NATOが自身の核兵器を廃棄するということは、単純に政治的に受け入れられないシナリオです。このことは中・東欧諸国の指導者に限ったことではないと思います。また、核兵器の保有はロシアにとって自国の国際的な権威を維持するための数少ない源泉となっており、同国が核兵器の廃絶を受け入れるシナリオはほとんど想像できません。

Q:非核保有国として、中・東欧諸国が、核兵器の廃絶、或いは核兵器の削減や核実験の制限に関する国際議論の行方に実質的な影響力を行使することは可能だと思いますか?

A:米国に対しては、中・東欧諸国は少なくとも自国にとって大幅に不利益と考えられる米国の政策に対して、強い反対の意思を伝えることはできると思います。具体的には、アフガニスタンの場合のような米国が率いる国際ミッションからの脱退や、NATOに代わる欧州安全保障・防衛政策を担うとされるESDPへのより一層の傾斜という手段が考えられます。しかし中・東欧諸国がこうした強硬措置をとる可能性は低いでしょう。現実的には中・東欧諸国は、

米国政府へのロビー活動を通じて自国のニーズや国益に沿うよう米側の政策緩和を求める形をとるでしょう。米国は東欧の同盟諸国の声を完全に無視することはできないわけですから、こうした外交交渉にはある程度の成果が期待できます。

Q:中・東欧地域は、例えば冷戦の歴史や共産党政権下で核兵器が配備された経験から、少なくとも核兵器の拡散を防止する上で、国際政治において何らかの役割を果たせられると思いますか?

A:おそらくNATOや欧州連合の政治・イニシャチブへの参加を通じて以上のことは困難だと思います。

Q
:今年5月に開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議が残念な結果に終わったと評されている観点からみると、中・東欧諸国は、核不拡散や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の問題に対してもっと積極的な支援が出来る、あるいはすべきだと思いますか?

A:中・東欧諸国が、たとえそれらの問題に対して積極的な支援に動いたとしても、現在の国際体制に占める位置からすれば、大きな影響力を及ぼせるとは思えません。NPT運用検討会議の問題点は、その機会を核軍縮推進の手段にしようと試みていることだと思います。しかし核保有国は、様々な美辞麗句を並べても、こうした動きを決して受入れないでしょう。実際のところ、核軍縮を求める熱心な動きの中に、核兵器を保有すること自体がいったいなぜ悪いことなのかという明確な説明は欠落しているのです。

Q:共産党政権時代に中・東欧に核兵器が配備されましたが、共産主義が崩壊して共産勢力が去ってからは、核兵器の問題は地域の政治及び一般の話題から比較的遠ざかっていたようですが、どうしてそのような経緯をたどったと思いますか?

A:まず、ソ連の脅威と米ソ軍事衝突のリスクが消滅したことに伴い、核兵器の問題は、

中・東欧地域における安全保障・脅威に関わる話題の中で重要な位置を占めなくなりました。そして9・11同時多発テロ後に行われたテロ攻撃と大量破壊兵器の関連についての協議でさえ、結果的に抑止力としての核兵器に一層依存した計画を立てるということにはなりませんでした。このことは特に米国が、核兵器によるテロ攻撃への報復がもたらす政治的・人的損害を想定すると自爆テロを抑止或いはそうした攻撃から守ることは不可能であるとの公式な立場をとったことが大きく影響していると思います。

Q:国連は最近様々な国々の政府高官と会合を重ね、包括的核実験禁止条約(CTBT)、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)、及び学校における軍縮教育の分野において前進を図ろうとしています。中・東欧諸国の政府はこうした動きを支持するでしょうか?もしそうだとしても、こうした条約の発効や軍縮教育の実施は現実的な目標だと思いますか?

A:特に私は国際関係における核兵器の役割を、現在主流となっている軍縮議論よりもはるかに肯定的に捉えている立場から、個人的な見解としては、こうした動きについて少し懐疑的に思っています。私の意見では、教育を教化へと変質させるリスクを防ぐためにも、こうした問題を取り扱う場合、軍縮の美徳とともに、国際システムの中における核兵器の役割について、公平かつ批判的な評価についても触れるべきだと思います。(IPS/09.29.2010)

 

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