Image credit: UNODA
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核の脅威が高まる中、停滞する軍備管理

【国連IDN=タリフ・ディーン】

ロシアや北朝鮮による核の脅威が高まる中、国連は10月24日から軍縮週間を迎え、大量破壊兵器、特に核兵器はその破壊力と人類への脅威から、引き続き最大の関心事であると警告した。

しかし、これまでのところこれらは、軍事力或いは攻撃的な見せかけだけの脅しを派手に誇示したものに過ぎない。

先日発表された国連の最新版「2021年軍縮年鑑」では、2021年の核軍縮に関する国際社会の「進展」の一部が掲載されている。

この年の画期的な出来事と言えば、1月22日に核兵器禁止(核禁)条約が発効したことであろう。

この画期的な成果を受けて、2月上旬には「米国とロシア連邦の戦略的攻撃兵器のさらなる.削減と制限のための措置に関する条約(新START条約)」が5年間延長された。

米国とロシアがこの二国間の唯一の法的拘束力のある軍備管理協定の延長に協定の期限まであと数日というタイミングで合意したことは、次世代の軍備管理に向けた基礎作りが火急の課題であることを示した、と同年鑑は記述している。

しかし、2021年から22年にかけての核軍縮分野における進展の停滞についてはどうだろうか。それでもって、これまでの進展は打ち消されてしまうだろうか。

国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)でかつて検証・安全保障政策局長を務めたタリク・ラウフ氏は「私の見方では軍縮の『赤字』が2020年から21年にかけて増大してしまった。」とIDNの取材に対して語った。

「軍備管理は停滞し、包括的核実験禁止条約(CTBT)発効への動きは一向に進まず、中国・エジプト・イラン・米国は条約を批准せず、インド・パキスタン・北朝鮮は署名を拒否、イスラエルも批准を拒否しています。」

ラウフ氏は、2020年から21年にかけては核軍備管理も崩壊し、唯一の明るい話題は核禁条約が米国などの反対にもかかわらず発効に必要な批准数50カ国のしきい値に達したことだと指摘した。

核禁条約は現在、91カ国が署名、68国が批准を終えている。

国連軍縮部が1976年以来発行してきた刊行物である軍縮年鑑は、兵器の規制・管理・廃絶を通じて平和の大義を前進させる多国間の取り組みに関心を持つ外交官や一般市民に対して、包括的かつ客観的な情報を提供してきた。

2021年、これらの取り組みは新型コロナウィルス感染症のパンデミックという逆風に晒され続けた。

「コロナ禍は、軍縮や不拡散、軍備管理に関連した火急の課題に対して、政府間の公式かつ対面の会合で対応する能力に大幅に制約を課したのみならず、紛争地帯に対する人道支援の提供を困難にし、近年進展してきた経済的平等・ジェンダー平等の成果を打ち消す役割を果たしてきた。」と年鑑は記述している。

「さらに、コロナ禍によって、公衆衛生のような重要部門に公的資源を追加投入する必要性が世界中で感じられているにも関わらず、世界の軍事支出は、武力衝突が続く中で、あらたな歴史的なレベルに達しつつある。」

ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)公共政策グローバル問題大学校で「軍縮・グローバル人間安全保障」プログラムの責任者を務めるM.V.ラマナ教授は、2022年という地点から21年の成果を見てみると、軍縮における成果が核兵器国(とりわけ現在はロシア)の行動によっていかに打ち消されてしまっているかを見ることができる、とIDNの取材に対して語った。

キューバミサイル危機以来最も核戦争の危機が高まっているこの2022年にあって、核禁条約発効という極めて大きな成果を見失ってしまうことはたやすい。」

しかし、核の脅威が定期的に取り沙汰されるという事実そのものが、とりわけ核兵器の使用の威嚇を禁じている核禁条約第1条の重要性を際立たせている、とラマナ博士は語った。

現状を見れば、「すべての国が普遍的にこの条約を遵守することを目的として、締約国でない国にも署名、批准、受容、承認又は加入を促す」ことを締約国に呼びかけた同条約第12条を思い起こさざるを得ない。

「もちろん、核兵器国がこの条約に加入する可能性は、現在はほぼゼロに近い。しかし、冷戦期に人類を核戦争から救った最も影響力のある核軍備管理条約は、キューバミサイル危機以後に署名されたものだということを忘れてはなりまえん。」とラマナ氏は指摘した。

国連は軍縮週間を記念しながら、「通常兵器の過剰な蓄積と不正取引は国際の平和と安全、持続可能な開発を危うくし、人口密集地での通常兵器の重火器の使用は民間人を著しく危険に晒している」と指摘している。

自律兵器のような新たな兵器技術は世界の安全を危機に晒し、近年国際社会からの関心が高まっている、と国連は警告する。

軍縮週間は軍縮問題と領域を超えたその重要性への意識喚起と理解の増進を図ることを目的としているが、この1週間にわたるイベントは、1978年の国連総会軍縮特別総会の最終文書(決議 S-10/2)によると、国連創設記念日にあわせて実施されている。

1995年、国連総会は加盟国やNGOに対して、市民の間に軍縮問題の理解を広めるために、軍縮週間に引き続き積極的に参加するよう呼びかけた(決議50/72B、1995年12月12日)。

「歴史を通じて、各国はより安全で安心な世界を築き、人々を危険から守るために軍縮を追及してきた。国連の創設以来、軍縮と軍備管理は危機と武力紛争の予防し終結させるうえで重要な役割を担ってきた。高まった緊張や危機は、より多くの武器によってではなく、真剣な政治的対話と交渉によってより良く解決されるのである。」

国連はまた、軍縮のための措置は、国際の平和と安全の維持、人道原則の保持、民間人の保護、持続可能な開発の促進、諸国間の信頼と信用の促進、武力紛争の予防・終結など、多くの理由から追求されてきた、と指摘している。

軍縮および軍備管理措置は、21世紀における国際および人類の安全保障の確保に役立つものであり、したがって、信頼性が高く効果的な集団安全保障システムの不可欠な一部でなければならない。

「国連は引き続き、軍縮・軍備管理・不拡散の取り組みを通じて、より安全かつ平和な共通の未来に貢献するさまざまな主体の取り組みと関与を歓迎する。」

この世界が、大量破壊兵器や通常兵器、あらたなサイバー戦の脅威にさらされるなか、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、人類を救い、命を救い、私達の共通の未来を守るための「新たな軍縮アジェンダ」を発表している。(10.27.2022) INPS Japan/ IDN-InDepthNews