Photo: The "Good Defeats Evil" sculpture, located at UN Headquarters in New York, depicts an allegorical St. George slaying a double-headed dragon. The dragon is created from fragments of Soviet SS-20 and United States Pershing nuclear missiles. Photo: UN Photo/Milton Grant
Photo: The "Good Defeats Evil" sculpture, located at UN Headquarters in New York, depicts an allegorical St. George slaying a double-headed dragon. The dragon is created from fragments of Soviet SS-20 and United States Pershing nuclear missiles. Photo: UN Photo/Milton Grant

「核の恫喝」の時代は終わらせるべき

【国連IDN=タリフ・ディーン】

国連が「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」を迎えた9月26日、国連総会のチャバ・コロシ議長は「焼け焦げ、表面にぶつぶつができた状態で長崎の廃墟の中から発見された」聖像について各国代表らに語りかけた。この石像は現在、国連本部の事務局棟に常設展示されている核兵器の恐ろしさを示す展示物の中に入っている。

「この石像は、決して繰り返してはならない過去を思い起こさせてくれます。私自身も、この石像の暗い警告を心にとめるつもりです。私は、戦争の惨禍から守られた世界という、私たちの夢の実現に向かって最大限の努力をする所存です。」とコロシ議長は語った。

「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」は2014年から記念されている。国連総会は2013年12月、同年9月26日にニューヨークで開かれた核軍縮に関する国連総会ハイレベルフォーラムの結果を受けて、決議68/32によって国際デーの創設を決定した。

米国は、日本の都市である広島と長崎に対して1945年8月6日と9日に原爆を投下した。この2発の原爆によって、ほとんどが民間人である12万9000人~22万6000人が亡くなったとされる。しかし、この原爆投下は武力紛争下における核兵器使用の唯一の例となっている。

国連総会議長は、米国・英国・フランス・ロシア・中国の核保有5か国が今年初めに「核戦争に勝者はおらず、決して戦われてはならない」ことを共同で確認した事実を指摘した。

その他4つの核保有国は、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮である。

「そのわずか9カ月後、大国間の緊張が新たに高まっている。私達は再び、核攻撃とそれに続く報復までわずか100~110秒というところにいます。」

ウクライナでの戦争は核の惨事が起こる可能性を著しく高めているが、他方で、国際原子力機関(IAEA)が警告しているように、「火を弄んでいる」者たちが一部にいる。

「私は特に、核攻撃の脅しが隠し立てもせずに繰り返されていることに驚愕しています。しばしば戦術核による攻撃について口にする者もいるが、そうした紛争が戦術レベルにとどまらないことを私達はみな知っています。」

朝鮮半島に関しては、核の威嚇がこの地域及び世界に対して受け入れがたいリスクをもたらし続けているとコロシ議長は語った。

「他方で、世界の軍隊には1万3000発以上の核兵器が存在している。これらの兵器への投資が増え続ける中で、食べ物すら買えず、子どもを学校に通わせることができず、体を温めることができずに困っている人々がたくさんいます。」と、コロシ議長は指摘した。

核兵器を放棄し核実験場を閉鎖した先駆的な役割を果たした国として、カザフスタンが引き合いに出されることが依然として多い。

1949年から89年にかけて、推定456回のソ連の核実験(うち116回の大気圏内実験を含む)がセミパラチンスク核実験場で実施され、人間の健康と環境に長期的な悪影響を与えた。

1991年のソ連崩壊後、カザフスタンは約1400発の核弾頭をソ連から継承したが、自国の安全は軍縮によって達成されるという認識のもとに、それらの核は放棄された。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ元大統領は、旧ソ連から独立した諸国の中で、核兵器の廃絶と中央アジア地域における非核兵器地帯創設を初めて呼びかけた。

カザフスタンは、領内の全ての核兵器をロシアに自発的に返還し、核不拡散条約(NPT)に加入することで非核兵器国として国際社会に加わった。

「平和・軍縮・共通の安全保障キャンペーン」の代表であり「国際平和ビューロー」の副代表であるジョセフ・ガーソン氏は、IDNのインタビューにこう答えた。「『核兵器の全面的廃絶のための国際デー』で示されたビジョンや希望、記念イベントと、人類が今まさにキューバミサイル危機以来最も危険な核の対峙の人質となっている現状との間で、泣き叫びたい気持ちになっている人もいるだろう。」

核不拡散条約再検討会議直前のこの8月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「人類は今、ひとつの誤解や誤算が起きただけで、核によって滅亡する危機に瀕しています。」と警告した。この状況にあって最も優先しなくてはならないのは、核戦争の防止だ。

ガーソン氏は、「ウクライナ戦争が目まぐるしくエスカレートする中で、米ロの指導者らが弄んでいる核の火によって私たちは疲弊しています。」と語った。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ領土をさらに併合して表向きはロシアの一部とする動きを見せる中、ロシアを「守る」ために核兵器を使用すると脅し、それを「ハッタリではない」と警告している。

「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、米国やNATOからの支援を得て、ロシアが征服した領土の全てを取り戻すことを誓っている。私達はこうして、ロシアの資源を食いつぶすか、あるいはロシア軍が決定的な敗北を喫するかのいずれかの終わりなき戦いの危険に直面している。いずれの場合もプーチン支配の脆弱性を高め、ロシアの要求にウクライナを従わせようとするための戦術核兵器の使用の可能性を高めている」とガーソン氏は警告した。

プーチン大統領の核の恫喝に対して、バイデン政権は「断固として対応する」としているが、これは核の報復を示唆したものだ。しかし、それぞれの超大国の政治的、国家主義的な勢力を考えれば、敗北と見えるようなものを受け入れることはどちらの指導者にとっても難しいだろうとガーソン氏はみる。

「こうして人類の運命が危機に立たされています。」とガーソン氏は指摘した。

「核の脅威を終わらせ、核兵器を廃絶し、核兵器予算と投資を公衆衛生やコロナ禍からの復興、気候変動、持続可能な開発問題へと振り向けるべき」との世界的なアピールがなされる中で、核兵器の全面的廃絶に関する国連の会合が開かれている。

このアピールを発したのは、核拡散を防止し、核兵器のない世界を実現するために幅広い取り組みを行っている議員たちの世界的ネットワーク「核不拡散・軍縮議員連盟」(PNND)である。

国連事務総長は加盟国に対する演説で、「核の恫喝」の時代にあって、世界を破滅させかねない事態の脅威から一歩引いて、平和への決意を改めて固めるべきだと訴えた。

「核兵器は人類がこれまでに開発した最も破壊的な兵器です。核兵器は安全をもたらさず、ただ殺戮と混乱をもたらすだけです。核兵器を廃絶することは、私たちが将来世代に残すことができる最大の贈り物と言えます。」

グテーレス事務総長は、冷戦が人類を「滅亡の数分前」まで追い詰めたと振り返った。また、「ベルリンの壁崩壊によって冷戦が終結から数十年経った今、再び核兵器を振りかざす声を耳にしている。」と語った。

「はっきりさせよう。核の恫喝の時代は終わりにしなければなりません。核戦争を戦ったりその戦争で勝ったりしようとある国が考えたとしたら、そのような考え方は不健全です。核兵器の使用は人類絶滅を引き起こします。私達は冷静にならねばなりません。」

グテーレス事務総長はまた、核兵器を保有する国々が核軍縮という目標に法的拘束力のある形で唯一コミットしている条約である核不拡散条約(NPT)の再検討会議(8月)で、加盟国が全会一致の決定に至らなかったことに遺憾の意を表明した。

各国代表らは、国連本部での4週間にわたる集中的な協議の後、ウクライナの原子力施設に対するロシアの管理を巡る文言にロシアが同意しなかったことから、最終文書を採択できずに終わっていた。

グテーレス国連事務総長は各国に対して、諦めずに「緊張を緩和し、リスクを低減し、核の脅威を取り除くために、対話・外交・協議のあらゆる方法を用いる」よう求めた。

他方、ガーソン氏は、台湾をめぐる米中間の対立、カシミール地方を巡るインド・パキスタン間の対立、核兵器を保有する9カ国による核軍拡競争が、核による破滅という同じ危険を呈していると指摘した。

「『核兵器の全面的廃絶のための国際デー』は、この目前の、かつ長期的な核の危険に対して私達の目を改めて向ける機会を提供している。私達が最も優先すべきは、核戦争の防止です。」

このことは、ウクライナ戦争の即時停戦と協議を通じた和解合意、さらには、台湾付近と南シナ海での米国と中国の挑発的な軍事行動を停止させることが急務となっていることを指し示している。

「緊張を封じ込め、破滅に至る計算違いを防ぐための共通の想定や防護策が何もない新たな冷戦に私達が突入する中、米ロや米中は、戦略的安定を確立するプロセスに改めて関与せねばなりません。それは、意味のある軍備管理・軍縮協定の交渉の土台となりうるだろう。」とガーソン氏は警告した。

このような措置がなければ、核不拡散条約や核兵器禁止条約(TPNW)にもかかわらず、最終的に核戦争を防ぐ唯一の方法である核兵器の完全廃絶というビジョンと緊急性は、私たちの手の届かないところにありつづけるだろう。

「この国際デーにあたって、そして今後も、私達が頭に入れ行動の基礎としなければならない自明の理があるとすれば、それは、『人類と核兵器は共存できない』という被爆者の警告です。」とガーソン氏は指摘した。(09.29.2022) INPS Japan/ IDN-InDepth News

※タリフ・ディーンは、コロンビア大学(ニューヨーク州)修士課程でジャーナリズム学を修めたフルブライト奨学生。著書に『核の災害をどう生き延びるか』(1981年)、国連を題材にした『ノーコメント:私の言葉を引用するな』(2021年)等がある。