Image: Screenshot of YouTube video 'Hundreds Could Launch Within Minutes'. Credit: UN

G20を超えて:「核の脅威」対「核兵器禁止規範の強化」

【プラハ/ウェリントンIDN=アラン・ウェア】

2022年1月、『原子科学者会報』は「世界終末時計」を「真夜中まで100秒」にセットし、気候変動から核政策、激しさを増すナショナリズム、武力紛争を引き起こしかねない国際的緊張に至るまで、人類の生存を脅かしている高いレベルのリスクがあることを示唆している。

その1ヶ月後、ロシアはウクライナに対して「特別軍事作戦」(不法な侵略)を開始し、現在進行中のロシアの「作戦」(対ウクライナ戦争)に干渉すれば、核による報復を受けることになると、西側諸国に対して繰り返し警告している。

このために核戦争のリスクは増大し、国際関係における「核の強制力」の利用を如実に示している。東アジアでもまた、台湾を巡る米中の対立や、北朝鮮のさらなる核・ミサイル開発によって核兵器による威嚇が強まりつつある。

しかし、11月17日、核保有6カ国(中国・フランス・インド・ロシア・英国・米国)を含んだG20諸国が「核兵器の使用あるいは使用の威嚇は容認し得ない」とする驚くべき確認を含む首脳宣言を採択したのである。

その文章は、「G20バリ首脳宣言」の第4段落に表れている。同段落は、国連憲章や「紛争における民間人やインフラの保護を含む国際人権法」に盛り込まれた「すべての目的と原則」、それに「紛争の平和的解決や、危機に対処する努力、外交と対話」に関する義務も確認した。

この宣言は、核リスク低減と軍縮における一つの突破口を示している。核兵器使用に対抗する一般的な慣行を強化し、それを少なくとも文書の上では現在、核保有国によって受け入れられている規範に高めている。

この宣言はまた、「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」というレーガン=ゴルバチョフの言葉を確認した五大国(中国・フランス・ロシア・英国・米国)首脳による1月3日の声明よりもはるかに強いものであった。G20首脳宣言は、核兵器の使用及び使用の威嚇をともに非難し、武力紛争が核兵器使用へとエスカレートしていくことに明確にノーを突き付けている。

「G20バリ首脳宣言」は、レーガン=ゴルバチョフの言葉は依然として有効であり、核兵器の使用及び使用の威嚇を禁ずる規範はロシア・ウクライナ戦争によって損なわれてはいないことを実証している。実際はその逆で、この戦争の結果、規範はさらに強化されている。

ひとつの要因は、この規範がロシアの核による恫喝に対する米国側の紛争鎮静化のアプローチになっているということだ。

米国は、ロシアの恫喝に対して核攻撃で報復するとの反応を見せておらず、ロシアが「核のタブー」を破ることがあれば壊滅的な帰結が待っていると警告している。米国の反撃は壊滅的なものにはなるが、核兵器は使わないと示唆したのである。

また、核兵器による威嚇や使用の検討が、仮説から現実のシナリオに移行したことも、規範強化の要因として考えられる。今回の紛争でロシアが核兵器の使用を検討する可能性のあるシナリオは、いずれもロシアがそれによって何かを得ることはなく、むしろ悪化する可能性が高いことが明らかになった。

ロシアがウクライナに対して核兵器を使用しても、ウクライナの軍事的優勢を覆すことはできないし、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナを支援することを思いとどまらせることもできないだろう。今のところ、米国とNATOは戦争には参戦しておらず、ウクライナに軍備を提供しているのみである。

ロシアが核兵器を使用した場合、米国やNATOが参戦し、ロシアに対して軍事攻撃を仕掛ける可能性が高い。また、ロシアは同盟国である中国やインドを失うことになる。両国は現在ロシアを支持しているが、この紛争での核兵器の使用には強く反対している。

第三の要因は、核兵器使用に対抗する法的・政治的規範の強まりだ。このことは、国際司法裁判所の勧告的意見(1996年)や核兵器禁止条約(2017年)、核兵器の使用やその威嚇は「生命への権利」(すべての核保有国が締約国となっている「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第6条)に違反していると判断した国連人権委員会の一般コメント36号(2018年)、今年8月の第10回会議も含めたNPT再検討会議に現れている。

今年のNPT再検討会議では最終文書への合意が得られなかったが、4週間に及んだ討論と最終文書案では、核兵器の威嚇や使用に対して非常に強い規範的な反対が示された(「『失敗』したNPT再検討会議にあたって、核の先制不使用も含めた各リスク低減を前進させる機会」を参照)。

G20での展開を受けて、「核の先制不使用グローバル」は12月12日、「核兵器不使用の突破口! 1945年以来のタブーから2022年時点の規範法へ」と題するディスカッション/ブリーフィングペーパーを発表した。この資料は、核戦争のリスクを排除し、核兵器廃絶への道を開くために、この核兵器を禁止する規範法を国家政策に導入し、世界的にさらに強化する方法を提案している。とりわけ、この核の先制不使用ブリーフィングペーパーは、以下のような具体的な行動を求めている。

・核の先制不使用政策の採用を含め、政策と実践をこの規範に一致させること。

・法的拘束力のある国際法の制定、あるいは国連安保理決議の形で、この規範を法制化すること。

・安全保障を与えるなどの形で、[この規範への]普遍的な支持を獲得すること。

「バーゼル平和事務所」は、G20サミットを受けて「世界終末時計と中立国家としてのスイス」と題する報告書を発表し、(バーゼル平和事務所が所在している)スイスやその他の非核保有国が、G20バリ首脳宣言や国連人権委員会の一般コメント36号、核兵器禁止条約などの最新の動きを基礎にした核リスク低減と軍縮の措置を今後数年の間に押し進めていく手立てについて論じた。

この報告書はまた、核リスク低減と軍縮を前進させるために、来たる「国連未来のサミット」で提供される機会を強調し、実質的で重要かつ実現可能ないくつかの具体的政策提案を行っている。これには例えば、(国連総会、NPTプロセス、国連安全保障理事会、国連未来サミットを通じて)核保有国や同盟国が以下のことに合意するよう働きかけることが含まれる。

1.核の先制不使用政策を支持・採用し、すべての核兵器システムを警戒即発射態勢から解除することにより、「核戦争に勝者はなく、したがって戦われてはならない」とする声明を実施すること(第10回NPT再検討会議に提出した作業文書「核兵器の先制不使用:一国的・二国間・多国間アプローチの追求とそれが安全・リスク低減・軍縮に与える影響」を参照。)

2.核兵器禁止条約の批准を可能にする議定書の採択、地球規模の核兵器廃絶のための枠組み条約(気候変動枠組み条約と同様)の合意、核兵器禁止条約の交渉開始のいずれかにより、核兵器のない世界のための枠組みを構築する具体的作業を行う(これらの選択肢に関する詳細は、核兵器廃絶のためのグローバル市民社会ネットワークであるアボリション2000が第10回NPT再検討会議に提出した作業文書「核兵器のない世界のための枠組み」を参照。)

3.NPT75周年であり国連創設100周年にあたる2045年までに核兵器の世界的廃絶を達成すると公約すること。

これらの呼びかけは、世界各地の有力な市民社会代表1000人以上が賛同し推進した「人と地球の保護、核兵器のない世界のためのアピール」でも行われており、国連軍縮週間中の今年10月26日に国連に提出された。(12.15.2022) INPS Japan/ IDN-InDepthNews

※著者は「バーゼル平和事務所」の代表、「核不拡散軍縮議員連盟」のグローバル・コーディネーター、「世界未来評議会」の平和・軍縮プログラム責任者。